眠り姫
大学にいるときも、街にいるときも、自分に向けられる視線と黄色い声は絶えない。 けれども、図書館にいるときくらいは静かにさせろ、と一年次のときに心底腹を立てたことがあるので、図書館は唯一続が心静かに出来る場所なのであった。 向けられる視線は仕方がないと割り切っているので、それだけは気にしないようにして必要な資料のいてあるコーナーに回る。数冊の本を取り出し、確認をしようと閲覧室へ向かう。 閲覧室は、閲覧コーナーと違ってパーティションによって区切られており、比較的個人が保たれている。わざわざここまで来て続を眺める学生もいないので、基本的に図書館にいるときはここで本を読む。ここで本を読む学生も、基本的にあまり周りに気を払わないので邪魔されることもない。 そう思って閲覧室を覗くと、そこには一人だけ、先客がいた。 「さん?」 数ヶ月前、晴れて恋人となったが、たくさんの本とレポート用紙を広げたまま、机に突っ伏していたのである。 「そういえば、兄さんのレポートがなかなか終わらない、って言ってましたっけ。」 普段ならば、二人の空き時間が合ったときには近くの喫茶店に行くのだが、今週一週間は、空き時間を全て始の授業で出た課題につぎ込みたいのだというの言葉に頷き、こうして本来ならば二人でいられる時間も一人で図書館で潰すしかなくなったのである。竜堂先生の授業の課題を疎かにするわけにはいきません、と妙に燃えていたに押されたとも言える。 季節の変わり目にいつも風邪を引くのだと、なにかの拍子にが言っていたことを思い出し、規則正しく上下する肩に、自分のコートをかける。屋内とはいえ、そろそろ木枯らしも吹き始める頃である。に、軽く触れたの頬は若干冷たい。 の顔が向いている方の隣にある椅子に座る。暇潰しのために持ってきた本は何冊か手元にあるが、どうやらそれらは必要なくなったらしい。頬杖をつき、空いた方の手での前髪をかきあげる。 途端、軽くが身じろいだので手を止めたが、すぐにまた健康的な寝息が聞こえてきた。 「ただ、寝ているだけなんですけどね。」 それなのに、見ていて飽きないのは何故なんでしょうね。 呆れた声で呟きながらも、続はうっすらと微笑んだ。
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