Rhetoric
「ねえ、セブ。」 生徒のレポートの採点をしているセブルスに声をかけると、顔を上げずに続きを促された。 「モリーがね、ボガートを退治しようとしてたの。シリウスの家で。」 シリウス、という名前を聞いた途端に羽ペンが一瞬止まるあたり、私の恋人は素直だ。 「何度もridiculousって唱えるんだけど、何度唱えても、ボガートは変なものに変わらないで、モリーの家族やポッターの死体に変化するんだ。」 今すぐにでも鮮明に思い出せる異様な光景。モリーと、ポッターの忘れ形見とが、暗い部屋の中で、親しい者の死体を見下ろしている。 「いつもいつも、愛する人がいつ死ぬのだろう、って不安に怯えながらモリーは騎士団にいるのよ。」 お気に入りのソファに寝転んだままの私を、セブルスは咎めようとはしない。だらしないことがなによりも嫌いなはずなのに。 私は仰向けになって、冷たい石の天井を見上げる。 「私が今、ボガートに対峙したら、奴はなにに変化するのかしらね。」 そんなこと、考えなくてもわかる。 私が一番恐れていることは、置いていかれることなのだから。 だれに? どこへ? とうとうセブルスは羽ペンを置き、私の足元に座った。 「なにが不安なんだ、?」 「まるで、自分が不安じゃないかのような言い方ね。セブだって、私がどうにかなってしまったら、正気じゃいられないくせに。」 セブルスは困ったように首を傾げた。 「少なくとも、が『どうにか』なるような状態は、見なくてすむからな。」 「つまり?」 「『どうにか』ならないように、命を賭けてを守るつもりだ。」 「死んだら、私が『どうにか』なった姿を見なくてすむ、と?」 「ああ。」 せこい。 ずるい。 嫌なやつ。 「この、根っからのスリザリン。」 「賞賛の言葉と思おう。」
自分の目的のためには、手段を選ばない。 たとえそれが、自分の死を意味しようとも。 だから、この人は、私のためには死さえ厭わない。 そして、私が死ぬさまを、見なくてすむように、私より先に死ぬつもりなんだ。 私を、守って、死ぬつもりなんだ。
「忘れているみたいだけど、私だってスリザリンよ。」 私はソファの背に手をついて起き上がった。 「あなたを、絶対に死なせない。」 セブルスは笑う。 「なら、二人とも生き残るまでだ。」
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