むかしむかしにあこがれていた、あのこのあかいくつ。

 

 セブルスは蝙蝠傘を差し、脇に一回り小さい傘を抱えて雨の中庭に出た。傘を渡してもすぐには差さないだろうことを予想して、脇の傘を抱え直して自分が差している傘の中にうずくまるが入るようにした。

「泥が、ね。」

 ぬかるんだ土を踏む音が聞こえたのか、自分に降りそそいでいた雨が遮断されたのに気付いたのか、は後ろを振り向かず、うつむいたまま口を開いた。

「ローブに、跳ねたの。」

 そう言われて見れば、の真っ赤なローブには至るところに泥はねがついている。

「リリーがね、昔赤い靴を履いてたんだ。それ、とてもかわいくてね。一度、履いてみたかったんだ。」

 記憶の中を浚い、あの男勝りな少女がそんな洒落た靴を履いていただろうかとセブルスは悩んだ。

 だがすぐに、七年生の年度始めに、彼女が新しい靴を履いて少し嬉しそうにしてたいのを思い出した。あの頃、ちょうど彼女はジェームズと付き合っていたせいか、どんどん女らしくなっていっていたのだ。

「どうしても、その靴を一度でいいから履いてみたくてね。リリーに無理言って履かせてもらったの。」

 リリーが、とても大事にしていたのを覚えている。毎日履いているにもかかわらず、いつでも新品同様綺麗だった。

「なのに、ちょっと歩いたら、泥が跳ねたの。」

 拭けば、すぐに落ちる程度の汚れ。狼狽して謝り続けるに、リリーは「拭けばすむわよ。」と笑って。

「たった、それだけ。本当にリリーは、拭けばすむだけだから気にしてなかったわ。実際、彼女もよく汚してはすぐに拭いていたから。」

 水を吸って重くなったローブに、泥がじわりとしみ込んでいく音が聞こえる。

「本当に、それだけ。なにか後日談があるわけじゃなくて、ただそれだけ。ローブに泥が跳ねて、色が似ていたから、思い出したの。」

 はそう言って立ち上がり、セブルスは傘を差し出す。おとなしくは傘を受け取り、ゆっくりと天に向けて差す。

「ローブだけじゃなく、髪も汚れてるぞ。」

「マジ? 困ったなあ。新しいシャンプー調合してくれない? あと、いい染み抜きの薬。これ、シルクなんだよねえ。」

「シルクで雨の中にいる方が悪い。」

「あはは。」

 

 あのこのあかいくつ。

 はけば、あのこみたいにかわいくなれるとおもったの。

 あのこみたいになれば、あなたがふりむくとおもったの。

 

「セブルス、リリーのこと好きだったでしょ。」

 

 

 

 

反省会
 脈絡なく思い出すこと。

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