「にゃーお。」




このここのこ

 

「にゃんにゃんってさ、」

 突然喋りだした私に驚いたのか、アリスは飲んでいたコーヒーに咽た。

「な、なんや、いきなり。」

「うん、猫娘やな、思って。」

 寄ってきた桃ちゃんの頭を撫でる。部屋の主は私たちを無視して学生さんたちのレポートを添削している。

「せやから、きちんと順序立てて話してくれへん?」

 彼女の脈絡のない上に突拍子もない話し方には慣れたつもりだったが、それはやはりつもりだったらしく、私は胸を叩きながら桃を抱きしめるに尋ねた。

「ああ、やから、娘を二回書くと、中国語ではニャンニャンって読むやん? して、日本語では猫のことをにゃんにゃん言うから、なんか繋がりあるんやないかな。社会学のセンセ、何かお考えはあらへんか?」

 火村はちらりとを見て、興味なさそうに答えた。

「俺は民俗学者でも中国語の先生でもねえんだよ。」

「あほやなあ。何も考えんとそうやって専門に逃げるんは、恥ずべき大人やで? せめて、自分は専門と違うんやけど個人的にこう思う、くらい言わなあかんで。それが人にものを教える者の姿勢っちゅうもんや。」

 俺は今日中に添削を終えることを断念し、新しいタバコに火をつけた。

 このお姫様、なんか気に入ったことがあると一日中それについて論議をしたがる。また今日もそれに付き合わされるわけだ。

「じゃあ、常識にとらわれない芸術家先生のご意見は?」

 火村くんは口元をゆがめた。

 何よ、添削やめちゃって。結構話する気満々なんじゃない。

 よーし、これから作家先生対大学の先生対版画家先生の弁論大会でも・・・。

「なあ、このメンバーで弁論大会やなんて、うちが一番不利なんとちゃう?」

 二人とも言葉をいつも使ってるけど、私はほとんど感覚で生きてる人じゃない。

 二人はにやりと笑った。

 へえ、こいつも少しは考えるようになったか。
 お、天然姫も、とうとう理屈で予想をつけられるようになったか。
 どうせ、二人ともしてやったり、とか思ってるんだろうなあ。

 私は桃に頬擦りした。

「桃ちゃん、おじはんたち、意地悪やなあ。二人して、うちをいじめるんやで。こんなかわいい女の子やのになあ。」

 かわいい・・・まあ、確かにはかわいいの範疇に入るであろう。だが、女の子にしては・・・せめて女、に止めてはどうだろうかと思う。もうすぐ彼女も三十路のはずだ。
 かわいい女の子、ねえ。どうせ、アリスはほとんど否定しないんだろうな。まあ、美醜の基準は人それぞれだからそれについては言及しないにしても、年を考えろよ。女の子、じゃねえだろ。
 あ、絶対二人とも、今私を馬鹿にした。

 どうせ、かわいくないとか思ってるんだろうなあ。

 ん? かわいい?

「わかった。にゃんにゃんって、かわいいものに対しての言葉なんや。中国では女の子がかわいいんやけど、日本では猫がかわいかったんや。せや、そうに違いあらへん。」

 桃ちゃんを目線の高さまで持ってくる。元野良の桃ちゃんは「なによ? なんか用?」って顔をして私を睨む。

「桃ちゃん、喜べ。うちも桃ちゃんも、かわいいにゃんにゃんや。」

 一人納得して喜んでいるようなので、私は彼女を放っておくことにした。
 どうやら今日の論議はここまででとまってくれたようなので、俺は安心して添削に戻った。
 納得して桃ちゃんと二人で喜んでると、男二人はそっぽを向いてしまった。

 女の子だけで盛り上がってたから、拗ねたのかな?

「大丈夫、火村くんも、アリスも十分にゃんにゃんやで。」

 

 

「「どういう意味だ/や!?」」

 

 

 

 

 

 

反省会
  一応、アリスは主人公をかわいいと言っている。その辺がアリスドリーム。

 

 

戻る