深い

 

 

 

 

「奴が死んだって? はっ、お笑いごとだね。奴は死なんよ。死ぬはずがない。あんたはわかっているんだろう? しかし、アイツの一人息子は生き残ったとくれば、かわいそうにねえ、その子は。これから一生、呪われた人生を歩かなければならない。それでも生かしておくのかい、その子を?」

 

「守れって? 冗談はよしとくれよ。あたしはどっちの側にもつかないと言っただろう? それでよしとしたはずじゃないか。今更そんなこと、言うんじゃないよ。いくらあんたの頼みでも、そんなことは聞きやしないよ。」

 

「死んだ? 誰が? ああ、あの小鼠か。」

 

 

 

 覚醒した途端に襲ってきたのは、吐き気のするような頭の痛みだった。

 それからすぐに指が痛んだ。ずきずきと脳天に突き抜けるような痛みが走って、思わず叫び声を上げる。

「おや、起きたのかい。」

 小馬鹿にしたような声が上から降ってきて、目の焦点を合わせる。逆光になってよくわからなかったが、どうやら髪の長い人物が自分を見下ろしているらしい。

「指が痛むのかい? おかしいねえ、お前さんの指はもうないはずだよ。」

 ほら、とその人物は自分の手を無造作に持ち上げる。その衝撃で体を痛みが突き抜け、再び短い悲鳴を上げる。それでも、視界の端に指が一本欠けた自分の手が見えた。

「マグルの医学書で見たんだがね、人間、体の部分をなくしても、はじめの頃は頭が欠けたことを自覚しないんだそうだ。あるはずのない箇所の痛みを、頭が勝手に作り上げるんだとさ。災難なことだねえ。」

 間延びした声は心底楽しそうに笑った。

「痛むだろう? もし、どうしても痛みを消したいのなら、これを飲むといい。」

 目の前に差し出されたのは、濃い緑色の液体が入った椀だった。

 それが痛み止めの薬であることを自分は知っている。幼い頃、いたずらを企てる度にどんくさい自分だけが怪我をし、医務室で教師に叱られながらも何度もそれを飲んだからだ。

 思い出してしまう、あの頃のことを。

 動きが定まらないほど震える腕をなんとか動かし、椀を受け取る。信じられないほど苦い薬を胃に流し込むと、少しは痛みがまぎれた。

「これでもう少し寝られるだろうさ。申し開きは、次に起きたときに聞いてやるわ。」

 なんの申し開きも、言い訳もない。

 そう言おうにも、薬に眠りを誘う成分も入れられていたのか、体は寝台に沈み込み、目蓋は上下が触れ合った。

 

―――お前が、ジェームズとリリーを殺したんだ!

 

 そう叫ぶぼくは、一体誰に向かって叫んでいるのだろう。

 

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