いつか君は僕を忘れる
関口の部屋に上がった中禅寺と榎木津は他人の家にも関わらず、部屋の主以上に寛いでいた。 「これで満足ですか? あれが僕の姪のです。」 自分以上に寛いでいる先輩におずおずと声をかける関口を、榎木津は不機嫌そうに睨みつける。 「なんですぐに帰すんだ! ちゃんとほとんど喋れなかったじゃないか!」 関口は曖昧な表情をし、畳に寝転んだまま自分を睨みつける榎木津を見た。財産は殆ど使い果たされたとは云え、関口家には一時期は誰もが一目を置く裕福な家庭だった頃の面影はある。家屋は随分広く、中禅寺と榎木津が泊まる部屋は十分ある上、関口の部屋自体も男三人が寝そべってもまだ十分余裕がある広さである。 「仕方がないだろう。ちゃんは関口くんと同じ位、人見知りをするのだから。」 「そうか、僕を見て驚いたのだな!」 「まあ、否定はしませんよ。」 「中禅寺・・・・・・。淑江さんにも悪いことをしたなあ。」 淑江というのは関口の弟の妻である。の泣き声を聞いた途端、慌てて奥から飛び出してきて、を抱きかかえていってしまったのである。 「あとで弟と淑江さんに謝りに行こう。」 「大丈夫だと思うけど。ちゃんも、人見知りはするけれど、一度会ったら話はできるようになるから。」 「その点、君よりは社会性はあるみたいだね。」 中禅寺は外国人の様に肩を竦めた。関口は曖昧に苦笑し、榎木津の体を突付いた。 「エノさん、これからどうします?」 榎木津は薄目を開けて関口を見た。 「あれは淑子さんか。」 「・・・誰ですか、淑子さんって。」 中禅寺は呆れた様に榎木津を見た。榎木津は腹筋だけで起き上がり、関口に詰め寄った。 「ちゃんの所に行くぞ、猿。」
唯は自分に服を着せる母の目を覗き込んだ。 「ねえ、お母さん。ちょっと大変?」 は未だ五歳と幼かったが、幼女とは思えない程の知性があった。その為、母親が不機嫌になっているのはすぐにわかる。その理由が、突如帰郷した伯父やその友人達だというのはなんとなく察してはいたが、自分は伯父が居ることが嬉しいので、一体どういう態度をとればいいのか悩んでいた。 ぐる、と唯を後ろ向かせ、母はじじじとジッパーを上げていく。 「いいえ、大変なんかじゃないわ。」 じじじ。 には母親の表情は見えなかった。 「貴方には、あの人の血が流れているもの。」 じじじ、じ。
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