いつか君は僕を忘れる
の家族は祖父母と共に暮らしていた。 祖父母には息子が二人おり、長男の巽が東京に出てしまっていたので、次男である父が両親の面倒を見るためでもあったし、初孫が可愛い祖父母が是非にと勧めた結果でもあった。 自身は物心ついた頃から祖父母がいることが普通であったからなんとも思わなかった。当時は三世帯以上が共に暮らすことはそれほど珍しいことでもなかったので、物心ついた後もなんとも思わなかった。
そしてある日、長男が珍客を連れて帰ってきた。 「タツ兄さん!」 のは、扉の開く音を聞きつけて玄関に飛び出した。そこには、口の中でもごもごと帰郷の挨拶を述べる関口がいたのである。 「お帰りなさい。おばあちゃん、タツ兄さんが来たよ。」 は家の奥に向かって声をかけ、改めて伯父を見た。関口は相変わらずおどおどした顔で辺りを見回していたが、は全く気にならなかった。 「関口君、いい加減退いてくれないかい? 僕達は何時まで此処に立ち尽くせばいいんだ。」 関口が慌てて横に退けると、その後ろから痩身の男が現れた。 「あ、」 「やあ、ちゃん。初めまして。」 「は、初め、まして。」 関口の後ろから、痩せぎすの、関口と同い年位の男が現れた。不機嫌そうな顔をしているのでは一瞬戸惑ったが、礼儀正しく在れ、と常日頃から祖母に云われているので即座に挨拶を返した。 「僕は君の伯父さんの知人でね、中禅寺秋彦と云うんだ。数日間、お邪魔させてもらうよ。」 中禅寺と名乗った男はにこりともせずにに説明した。やはり礼儀正しく挨拶を返したことは正しかったのだ、とは安心し、頭を下げた。 「関口です。遠い所をよくいらっしゃいました。」 中禅寺は片眉を軽く上げ、「君の姪とは思えない礼儀正しさだね。」と関口を揶揄した。関口はそれに対して反論しようと口を開いたが、文句は他の声によって掻き消されてしまった。 「退け、中禅寺! 僕もちゃんを見るのだ!」 中禅寺と関口を押し退けて、長身の希臘彫刻の様な男が玄関から這入ってきた。 は呆気に取られた。 鳶色の瞳に鳶色の髪。透き通る様に白い肌に彫りの深い顔。 余りにそれまでの世界の規格から外れたその男の姿に、は衝撃の余り、
―――泣き出してしまった。
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