賢者の贈り物
は悩んでいた。 「あんた、もうすぐ竜堂先輩の誕生日なんでしょ?」 の恋人である竜堂続は「白馬の王子さま」と呼ばれるだけあって眉目秀麗と有名なのである。有名であるが故、知りたくもないのに勝手に情報が入ってくる。 というのが友人の弁である。 その知りたくもない情報の中に、続の誕生日があったらしく、なぜか彼を恐れている友人は 「もし、お祝いし忘れでもしたら、一体なにが起こるやら・・・。」 と、に努々忘れるな、と忠告するのである。 友人の忠告を聞くまでもなく、も恋人の誕生日には気付いていた。年が開ける二ヶ月前から気付いていたのである。気付くと同時に、悩んでいた。 「なにを贈ればいいかしら。」 誕生日には必ずプレゼントを、と決まっているわけではないが、やはりこの十数年間、誕生日には友人や家族から贈り物をもらっている身、やはり好意を持つ相手にはなにか特別なものを贈りたいものである。 しかも、今は恋人という立場にあるのである。友人や家族とはまた違った、なにかそれらしいものを贈りたい。 相談相手に選んだのは彼の高校来の友人であった。 「続さまの誕生日プレゼント?」 「はい、なにかいい案はありませんか?」 「ううーん・・・ちゃんには悪いんやけど、あいつ、誕生日やろうとなかろうと、ありとあらゆるものを世の女の子たちから貢がれとったからなあ。あ、いや、受け取りはせえへんかったんやけどな。」 その続の友人は悩んだ挙句、「もらったことないもんはないんと違うかなあ。」と全く頼りにならないことを告げた。 「あ、せや、ちゃん折角彼女なんやから、ちゃんにしかあげられんもんあげたらええんや。」 「私にしかあげられないもの、ですか?」 「せや。」 続の友人はひょいひょい、とを手招きし、口元に手を当てる。 内緒話のポーズである。 は心得て耳を近づけ、続の友人の言葉に耳を傾けた。
決戦当日、一月十七日。 「決戦って、そんな大袈裟な。」 友人にそう笑って見せたは、ポニーテイルに巻いたリボンをふわりと揺らして恋人の下へ走っていった。 珍しく髪をまとめたを見つけた続は、それまでの無表情を解き、ふわりと微笑む。 「こんにちは、さん。」 「こんにちは、竜堂先輩。お誕生日、おめでとうございます。」 続の笑みを見て、も満面の笑みを浮かべる。キャンパスを行き交う学生たちにとってはもう既にお馴染みの光景なので、ちらりとその姿を視界に収めてすぐに目を逸らす。女学生の幾人かは悔しそうにしているが、あの二人にちょっかいを出して近所の病院へ行かなければならなくなった人間はかなりの人数になる。 因みに、その大半は女性である。 同窓生の温かい心遣いにより、半径十メートルほどの範囲に人のいなくなったことに気付かないは、照れたように両手を口元で合わせる。 「あの、先輩、プレゼントがあるんです。」 「プレゼントですか。」 「はい、誕生日の。」 「それは楽しみですね。」 真実嬉しそうに答える続に、はしかし、困ったように首を傾げる。 「あの、でも、申し訳ないんですけど、期間限定なんです。」 「つまり、いただくのではなく、貸していただく、ということですか?」 「はい、そんな感じです。ちょっと、まだ完全に差し上げるわけにはいかないので。父さんも悲しむでしょうし。」 一体なにを、と尋ねようとした続に、は精一杯の笑みを浮かべた。 「今日一日、私をあげます。」
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