Shall we dance?
クリスマス。
「ダンスパーティーの季節ねえ。」
去年からジェームズのためにクリスマス休暇もホグワーツに残ることにしたリリーがそう呟いた。
「そうだね。リリーは、ジェームズくんと行くんでしょ?」
「あったりまえじゃない。とーぜん、
はシリウスのバカと行くんでしょ? もったいないなあ。もっとカッコイイ子といけばいいのに。」
私とリリーは中庭のベンチに腰掛けて日向ぼっこしている。何でこんなところにいるかというと、いたずらのばれた四人組が罰掃除を言いつけられてしまったので、その帰りを待ってるというわけ。
ホント、あの四人と一緒にいると飽きないわ。次から次へと笑いのネタを提供してくれるんだもの。
「そんな・・・シリウス以上にカッコイイ人はいないよ。あ、もちろん、ジェームズくんもカッコイイよ。でも、たぶん無理よ。私、シリウスから誘われてないし。それに、誘われても、一緒になんて行けないわ。」
「何で? シリウスと一緒は嫌なの? まあ、バカだけど、でも顔だけはいいから、お姫様気分にはなれるわよ。」
いつもシリウスとケンカしてるリリーだけど、本人のいないところではこうして素直に褒めてる。こういうところ、やっぱりかわいいんだよね。ジェームズくんも目が肥えてるわ。
「だからよ。私なんて、シリウスには不釣合いだもの。シリウスには、もっと可愛い子の方が似合うと思わない?」
ちょっと俯いてそう言うと、リリーはつん、と私の頬をつつく。
「なあに言ってるの。女の子はね、こーゆー時には一等輝くの!
だって、ちょっとおしゃれすれば絶対可愛いわよ! ま、私には及ばないけどね。」
いたずらっ子のように笑ってリリーが言うので、私は思わず吹き出した。
「そうそう。そうやって笑って・・・そうね、
、せっかくキレイな黒い髪してるのに、そうやってひっつめてたらもったいないわ。それをほどいて・・・変わった編みこみとかしてもいいけど、そのままもキレイかもね。それから、眼鏡! コンタクト持ってるんでしょ? それして、うーん、そうね、ルージュはシャーベット系の色で、チークはオレンジかしら。パールラメの入ったアイシャドーに…あら、あなた、すっごくまつげ長いじゃない。マスカラはいらないかも。」
私の顔を覗き込んで色々と化粧品を列挙するリリーに、私は戸惑ったような顔をした。
「で、でもリリー。私、お化粧なんて持ってないし、」
「貸したげるわよ。」
「したことないからわからないし、」
「やってあげる。私、結構得意なのよ?」
「そ、それに、シリウスに誘われるって決まってないわ!」
「オレがどうしたって?」
ぎゃっ!
びっくりして振り返ると、そこには不機嫌そうな顔をしたシリウスと、疲れた顔をしたジェームズくんとピーターくん、それからいつも通りにこにこしたリーマスがいた。
「あら、終わったの?」
「終わったよ。ったく、お前だけうまく逃げやがって。」
「ノロマなあんたが悪いんでしょうが。」
「うるせえ。」
犬猿の仲って、こういうのを言うんだろうなあ。
そう思って二人を見てたら、シリウスと目が合った。
「大丈夫? とても疲れてるみたいだけど?」
「あ、ああ、気にすんなよ。これくらい、平気平気。」
「本当?」
「心配すんなって。」
つん、と私はおでこをつつかれた。
そんなに私はつつかれやすい体質なんだろうか。
「そうだ! ちょっとシリウス!! あんた、まだ誘ってないんですって!? なんて薄情なのかしら。それでも彼氏!?」
「ちょ、ちょっとリリー!」
腰に手をあててふんぞり返るリリーの服の袖を引っ張るけど、言うことを聞かない。
「誘う?」
「そうよ! もうすぐクリスマスパーティーでしょ! なのに、なんで真っ先に をダンスに誘わないのよ。」
「リリー、お願い、やめて!」
悲鳴を上げるみたいにして止めると、シリウスは考え込んでから私を見た。
「誘って、なかったっけ?」
「い、いいの! ほ、ほら、もうすぐ晩御飯だよ! みんな、行こう!」
慌てて立ち上がってホールに行こうとすると、シリウスは私の腕をつかんだ。
「悪い、忘れてた。なあ、 。一緒にダンス踊ってくれよ。」
私はシリウスの目を見て、それから思いっきり不自然にそらした。シリウスはすっごく動揺する。
「ご、ごめんなさい! 私、シリウスと行けない!」
「何でだよ?」
「だ、ダメなの!! 私、とにかくシリウスとは行っちゃダメなの!」
シリウスの手を必死で振り解いて、全速力でスリザリンの寮に向かう。談話室に行くと、もう既にほとんどの人がホールに行っているみたいで、革張りのソファーにはセブルスしかいなかった。
「ずいぶん走ったみたいだな。」
「うん。お茶ちょうだい?」
セブルスは何も言わないでひょい、と杖を一振りする。すると、紅茶の入った私専用のカップが現れる。私はそれを取って、更に杖を振る。すると、湯気のたった紅茶がアイスティーに変わる。
「で? 今度はブラックに何をしたんだ?」
セブルスは私がシリウスを裏でからかって楽しんでることを知ってる人の一人。悪趣味だな、と私を非難しつつも、シリウスが嫌いだから結構楽しんで私の武勇伝を聞いてる。
「んー? シリウスに私の可愛らしさを再認識してもらおうかな、って。今んとこ、作戦第一段階終了、って感じかな。」 「第一段階?」
「うん。今回は、ちょっと大掛かりなの。協力者も必要だし。」
「・・・。」
「あ、大丈夫。セブルスには迷惑かけないよ。リーマスに手伝ってもらうの。」
「ならいい。まあ、せいぜい化けの皮がはがれないように注意するんだな。」
「うん、そうする。」
さて、第二段階と行きますか。
翌朝。
「何を企んでるんだい?」
ルーン文字の授業に向かう途中、リーマスは苦笑して尋ねた。
「楽しいこと。今回は、ちょっと大掛かりなの。それでね、リーマス、」
「クリスマスプレゼント、弾んでくれる?」
「ハニーデュークスの高級チョコ、四つでどお?」
「乗った。」
よし、交渉成立。
「シリウス、今どんな感じ?」
実は、今日の朝はシリウスに会わないようにわざわざ朝食の時間をずらして、リーマスを捕まえるために廊下でじっと待ってたのだ。
「面白いよ。 にも見せてあげたいね。こう、目の下がクマで、魂抜けてるから。食事にもほとんど手をつけないし、リリーが何言っても聞こえてないし。」
「うわあ、見ればよかった。」
「リリーが写真撮ってたから、今度こっそり見せてあげるよ。マグルの写真は動かないから、じっくり観察できると思うよ。」
「チョコ、もう一個おまけしてあげる。」
「それはどうも。」
にこにこにこ。
教室に着くと、私たちは窓際の一番後ろの席を陣取った。まだ先生は来ない。
「で? 僕はどうすればいいの?」 「シリウスに、私をもう一度誘うように勧めてちょうだい。あ、その時に、なんで私が断ったか訊くようにも仕向けてね。」
「ハイハイ。・・・なんて答えるつもりなんだい?」
私はにこりと笑った。
「その一。私は可愛くないから、シリウスには釣り合わない。その二。グリフィンドールなのにスリザリンの生徒を誘ったら、シリウスが恥をかいちゃう。その三。私は踊りが上手くない。」
指折り答えると、リーマスは吹き出した。
「あら、笑うことないんじゃない?」
「それで、なんだそんなことか、そんなことない、 は可愛い、寮なんか関係ない、踊りは俺がリードしてやる、って言ってもらいたいわけ?」
「あったりぃ。」
悪趣味だね、ってセブルスと同じことをにっこり笑ってリーマスは言う。
「あら、そんなことないわ。女の子は、誰でも好きな人に可愛いって言ってもらったり、庇ってもらったりして欲しいに決まってるじゃない。そのためには努力も必要なのよ。」
「努力の仕方が悪趣味なんだよ。」
「あら、私はスリザリンよ?」
にこりと笑うと、リーマスはそうだったね、って笑う。
そういうことを、にこりと笑って言えるあなたが何故スリザリンじゃないのか不思議だわ。
その日の夜、グリフィンドールの談話室でピーターとチェスをしてると、生気の抜けたシリウスをジェームズとリリーが引っ張ってきた。
「やあ、お帰り。」
「「ただいま。」」
リリーとジェームズは心底疲れたように言ってからシリウスをソファーに投げた。あまりにも授業中ぼーっとしてるんで、マクゴナガル先生がシリウスに罰としてまた掃除を言いつけたんだよね。で、罰を言われてもぼーっとしてるんで、心配した二人が見に行ってみる、ってなって、
「倉庫でぼけっと立ってるのよ、この男!!」
「掃除もした様子がなかったからね。二人で慌てて掃除して、連れ帰った次第ってわけさ。」
ご苦労様。
ピーターのキングを奪って、僕はポケットのチョコレートを口に放り込んだ。これは からの前金。ちょっと二人が可哀想だったんで、二人にも分けてあげることにした。
「ねえ、シリウス。なんか に嫌われることした?」
「・・・覚えはない。」
「それはないと思うわ。直前までシリウスとパーティーに行くことを勧めてたんだけど、嫌そうじゃなかったもの。」
僕のチョコレートに噛り付いてリリーが答える。すると、シリウスは少しだけ目に輝きを戻した。
「嫌がっては、いなかった?」
「ええ。照れてはいたみたいだけど。」
・・・ 、君はいったいどこでそんな演技を覚えたんだい?
「ねえ、シリウス。ぼく思うんだけどさ。」
チェスを片付けながらピーターが言う。
「 、シリウスとは一緒に行きたいくない、とは言ってなかったよね?行っちゃダメ、とは言ってたけど。何か、理由があるんじゃない?」
「ピーターの言う通りだよ。たぶん、何か事情があるんだろうから、それを解決しさえすればいいんじゃないかな?もう一回、誘ってみたら?」
ピーター、珍しくいいことを言うなあ。ここのところ、ずっと僕がチェスに勝ってばかりだから、ピーターの功績を に報告しておいてあげよう。
ジェームズはぽん、とシリウスの肩に手を置いて、透明マントを取り出す。
「さあ、これで確かめに行くがいい、パッドフット。スリザリン寮の今年の合言葉はwhite
snakeだ。」
一体、ジェームズはどういう情報をどこから・・・。
まあ、とにかく。これで の思い通りに行くんじゃないかな。
の作戦はどうやら成功したらしく、次の日の朝、シリウスは上機嫌で朝食を喰べていた。
“食べる”じゃなくて“喰べる”であることに注意。
「シリウス、朝からそんなに食べたら、体に悪いよ?」
「いいんだよ。そういうお前は食わなさすぎだ。ちゃんと食え。」
「う、うん。」
シリウスが強引に をグリフィンドールに連れてきたため、いつもは食の細い は無理矢理皿にトーストを乗せられる。
因みに、この遠慮の仕方は本当だと思う。 って、本当に食べないからなあ。
「そうよ。 はもうちょっと太った方がいいわ。細いのもいいけれど、女の子はふっくらしてた方が可愛いもの。」
「お前はもう少しやせた方がいいな。」
「なんですって、このバカ犬!!」
「バカ犬って言うな!!」
また朝からケンカを始める二人を慌ててジェームズと がなだめる。
「シリウスが元に戻ってよかったね。」
「そうだね。それに、あの様子じゃあ、 とも仲直りできたみたいだし。」
そう言いながら に目を向けると、僕とピーターの言葉が聞こえたみたいで、素早くウィンクを送られた。
「作戦は大成功よ。」
「みたいだね。一時間目の薬草学の間中、 がどんなに可愛い悩みを抱えていたか喋り通しだったから。」
「まあ、そんなに言いふらしてるの?」
困っちゃうわ、なんて言いながら は満面の笑みでルーン文字のテキストを抱きしめる。因みに、今はルーン文字の授業が終わって、昼食に行くためにホールに向かう途中。みんなとは、ホールで待ち合わせになっている。
「でも、大笑いなのよ。シリウスったら、予想通りのこと言ってくれちゃうんだから。」
「なんだそんなことか、そんなことない、 は可愛い、寮なんか関係ない、踊りは俺がリードしてやる?」
「そう。ホント、読みやすいバカよねえ。」
幸せそうだなあ。
その状態につけ込んでピーターの手柄を話すと、 は、じゃあ、ピーターにもハニーデュークスのチョコを送らなきゃ、とすぐさま答えた。
よかったね、ピーター。
「しかし、そんなに上手くいくとは思わなかったな。」
実はルーン文字の授業を一緒にとってるセブルスも現在一緒。 の話だと、セブルスも の黒い面を知ってるらしい。
「あら、私を誰だと思ってるの?スリザリンの ・ よ。」
すると、セブルスは苦笑した。たぶん、僕も苦笑したと思う。
「「お見逸れしました。」」
「恐れ入ったか。」
「ああ、だが、ブラックも愚かだな。こんな悪趣味な女にほれ込むとは。」
「恋は盲目なのよ。まあ、あのバカなところが大好きなんだけどね。」
はそう笑ってホールの扉を開けた。
「 !こっちだ!」
「シリウス!今行くわ!」
そうしてスリザリンの少女は、自分の飼い犬の元へと走っていった。
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