瑕痕
鳥 鳥酉禽とりトリ・・・
私は思わず隣のエノさんにしがみついた。 「大丈夫かい、ちゃん?」 「だい、じょうぶ・・・」 鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛鸛 群れだ。鸛の群れだ。 そして奥には鷲が鷹が鵟が鳶が隼が 眼が目がめがメが 私を見ている。 「じゃ、ないかもしれないです。」 「駝鳥か!」 エノさんは座り込んだ私の右側を視ながら素っ頓狂な声を上げた。 「ええ、駝鳥です。」 私は、大きな鳥が苦手。 雀や燕や鴉や、普段から見慣れているのはいいけれど。 昔、学友達に付き合って動物園に行ったことがある。そこで偶々駝鳥を見ていたら、そのうちの一羽と目が合ってしまったのだ。 なんということはないのだが、その目が恐ろしくて気色が悪くて、どうも脳裏にこびりつく。 「それから・・・鳥肌だな。」 「そうです。」 背筋の寒い思いをした後、鸚鵡の檻を見に行った。すると、そこの鸚鵡は檻が狭い為かストレスを溜めていたらしく、自らの嘴で自らの羽をぶちりぶちりと抜いていた。 ぶちり ぶちり 鳥肌とはよく云ったもので、羽の下の地肌には、寒々しいくらいに疣が浮かんでいた。 以上二つの記憶により、私はあんまり大きな鳥が好きじゃない。 エノさんが倒れ込みそうな私の体を支える。 何時も何時も、綺麗すぎて希臘彫刻の様だと思っていたけれど、エノさんの手は本当に彫刻の様に冷たい。 死んでいるんじゃないかしら。 ここの鳥達のように、皮を剥がれて、中に詰め物をされて、瞳を硝子に変えられて、 「なんだ、カマか。」 カマとは、益田さんの愛称らしい。 「ええ、益田さんに聞いてきたんです。」 「それで京極のところに行ったのか! なんで真っ先に僕のところに来ないんだ?」 「エノさんはここにいたでしょう。どうやって来いと云うんですか。」 「僕は神だ!」 「・・・すみませんでした。」 そう。この人は、すぐに傍に来いと、こうも簡単に云う。 私が、この人の傍にいていいのだろうか場違いじゃないのか世界が違うんじゃないかと、ごちゃごちゃ考えていても、 「ちゃん! 何かあったら、何もなくても、君は僕のところに真っ先に来るんだ! いいね?」 見えない筈の目で、エノさんは私の目を覗き込む。 私は、硝子玉かもしれないその目を覗き込む。 いいや、この目が硝子なわけがない。 こんな目が、 この、私を見ているこの目が、 エノさんの後ろにいた鳥達が、一斉に飛び立つ。神の邪魔をしてはいけないのだと、そうわかっているのだ。 「見えた。」 ぽつり、とエノさんは呟く。 ぱちぱちと、何度も長い上下の睫毛を合わせる様に瞬きをする。 もしかして、 「エノさん、目が、」 「おお、見えるぞ! ちゃぁんと、ちゃんの顔が見える! うん、相変わらず可愛い顔だ。」 「神に、そう云われるなんて、光栄です。」 「うん。そうだ、光栄だ。」 エノさんは嬉しそうに腰に両手を当てる。 「さあ、行くぞ、ちゃん!」 「え、エノさん? 行くって、どこへですか?」 「なにを云っているんだ、ちゃん。君は、タツミを助けに来たんじゃないのか?」
は? 「え、エノさん? 今、なんと仰いました?」 声が上擦る。 「君は、タツミを助けに来たんじゃないのか??」 エノさんは忠実に先程の台詞を繰り返す。 「え、エノさん、タツミって、タツ兄さんのことですか?」 「そうだ! 猿の名前はタツミなのだ! 猿が嫌だと云うのでタツミなのだ! 神の慈悲だ!!」 タツ兄さん、一体エノさんとなにがあったんですか・・・。
反省会 と、いうのが当初の反省。ここで関口長男説が判明したので、書き直すことになりました。頑張ったよ。 |