あの娘にご用心!
シリウスに彼女ができたのはつい最近。それはまあ、喜ばしいことなんだけど、相手がねえ。 「スリザリンの ・ !?」 ピーターが大声で聞き返す。ジェームズも珍しく固まってるし、僕もついチョコレートを口にくわえたままシリウスを凝視してしまう。 「スリザリンだからって、ヤな奴ばっかって決めつけんなよ! はなあ、ハッフルパフにいてもおかしくないくらいに優しい子なんだぞ!」 ノロケかい。 僕は思わず心の中で返したけれど、その話を聞いていたリリーがそうよ、と相槌を打った。 「話したことはないけど、ちょっとおとなしくて口数は少ない子よね? とっても頭がよくておっとりしてる子だって聞いたわ。ずいぶん競争相手がいたでしょうに。なんでシリウスなのかしら。」 「おい、リリー。それはそういう意味だ?」 「言葉通りの意味だけど。」 「まあまあ。」 犬猿の仲の二人が火花を散らそうとするところに、ジェームズが苦笑しながら割って入る。 「そんなにいい子なら、紹介してくれよ。我らが親友のパッドフットの恋人なら、ぜひ挨拶しておかないとな。そう思うだろ、ムーニー、ワームテール?」 「そう思うけど、その言い方はリリーの反感を買うから改めた方がいいよ。」 「そう、そんなにシリウスの彼女に会いたいの。ふーん。」 「リリー! 違うんだ! 僕が愛してるのは君だけだよ!! その という子がどんなに素敵でも、君以上にすばらしい女性はいないに決まってるじゃないか!!」 「・・・おい、それってケンカ売ってんのか?」 三人でぎゃーぎゃー騒いでいるのは微笑ましいことだと思うんだけど。 朝っぱらからは、疲れるよねえ。 「ねえ、リーマス。」 「なんだい、ピーター?」 マーマレードジャムをトーストに塗りながらピーターは首を傾げる。 「 って、あの黒い髪でおさげの女の子のことだよね?」 「うん、確かそんな感じだったよね。」 「ぼく、その子のこと、知ってる。」 「なに!? ピーター、お前、オレの彼女に横恋慕か!?」 「ち、違うよ!! この間、魔法薬のレポートでわからないところがあって困ってたら、その子が参考書を貸してくれたんだ!!」 「へえ。宿敵グリフィンドールに優しいなんてね。」 「だから! あいつはそんなことで人を差別したりなんかしねーんだよ!!」 「シリウス、朝から元気だね。」 ぴた、とシリウスの動きが止まる。シリウスが振り向いた先には、眼鏡をかけた、黒髪をおさげにしたスリザリンの女の子がいた。 「 ! ちょうどいい。オレの仲間を紹介するよ。」 「シリウスのお友達? いいの? 私、スリザリンだけど・・・。」 「あら、グリフィンドールと仲良くするのは嫌?」 悲しそうな顔でリリーが言うと、 は慌てて頭を左右に振った。 リリー、女の子に向かっても演技かい。 「そ、そんなこと! みんなこそ、陰険なスリザリンの女なんて、嫌じゃないの?」 「お前なあ! そういうことを自分で言うな、って何度言えばわかるんだよ。お前のどこが陰険なんだ? 年がら年中ぼけっとしてる奴が。」 「でも・・・。」 「ほら、座れ!」 本当は他の寮の子は座っちゃいけないんだろうけど、シリウスは強引に自分の隣に席を作って を座らせた。 「この黒髪の眼鏡がジェームズ・ポッター。隣の赤毛がジェームズの五月蝿い彼女のリリー・エヴァンス(「ちょっとシリウス!?」とリリーが食って掛かる)。あのちっこいのがピーター・ペティグリューで、チョコレートばっか食ってんのがリーマス・ルーピン。で、我が盟友よ。彼女こそがオレの姫、 ・ だ!」 「シ、シリウス、その姫って・・・、」 「初めまして、 。リリーよ。よろしくね。」 「あ、こちらこそよろしく、ミズ・エヴァンス。」 「リリーって呼んでちょうだい。もう、私たちはお友達なんだから。」 うわ、親切くさ。 思わず心の中で言ったのが聞こえたみたいに、リリーは一瞬僕を睨んだ。 いつも思うんだけど、なんでリリーってスリザリンに入らなかったんだろう。 「あ、そろそろ授業が始まるな。 、お前、今日一限何だっけ?」 「ルーン文字よ。シリウスは、占い学だっけ?」 「かったりぃ。あ、ルーン文字ってことは、リーマス、お前、クラス一緒じゃねーか?」 「うん、そうだね。 、一緒に行こうか?」 「ええ。じゃあね、シリウス、またあとで。みんなも、またね。」 ジェームズとリリーはマグル学(リリーに何でマグル学が必要なんだ、って聞いたら、ジェームズがとるからだそうだ)、ピーターとシリウスは占い学、僕と がルーン文字。シリウスに途中で『変なことするなよ。』とすごまれながら教室に向かう。 「ルーピンくん、クラス同じだったんだね。私、知らなかった。」 「リーマスでいいよ。僕は一応知ってたよ。人数少ないからね。」 「あ・・・ご、ごめんね。」 「気にしてないよ。僕も目立たないからね。」 にしても。 確かにかわいい子だなあ。 眼鏡かけてみつあみなんかしてるけど、たぶん、化粧してリリーの持ってるような私服とか着たら、結構美人なんじゃないのかな、この子。それに頭がよくて、いい子なんだよね? シリウスに悪いけど、あの猪突猛進の馬鹿にはもったいないと思うな。 あ、いや、別にだからって僕がシリウスから奪おうとかは思ってないから。 って、誰に言い訳してんだよ、僕は。 「ねえ、 。君、シリウスのどこが好きなの?」 純粋に興味を持って聞いてみると、 はじっと僕の顔を覗き込んだ。 「ねえ、リーマス。」 「なに?」 「あなたって、私と同類みたいね。」 「え?」 「腹黒。」 にやりと、先程までの彼女からは想像もできない意地の悪そうな笑みが浮かんだ。 これは・・・、 「 、君って、」 「私ね、勘がいい人と頭がいい人が好きなの。だから、私、リーマスとはとても仲のいい友達になれそうだわ。」 「それは光栄だね。」 なんか、僕の周りの女の子って・・・ まあ、いっか。 「でも、勘がいいと頭がいいって、シリウスには全く当てはまらなくない? あの猪突猛進の馬鹿犬には。」 「うーん、理想と現実は違うみたい。それに、シリウスって見てて飽きないじゃない? あの馬鹿なところとか。」 「・・・確かに。」 「でっしょー? だから好きなのぉ。突っつかれるとすぐに反応するところとか、単純で騙されやすいところとか。」 心底幸せそうに言う に、僕はちょっと笑った。 「なんとなくわかるなあ。」 「やっぱり、私、リーマスとは仲良くなれそう。」 「僕も、仲間ができて嬉しいよ。」 とにかく、彼女以上にスリザリンにふさわしい子はいないことが判明したわけだね。 シリウスには災難かもしれないけど。
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