一九九六年八月十日土曜日午後一時。

 その年その月その日その時間、あたしは学校にいた。

 夏休みの特別補習授業を受けていて、昼食も食べ終わってこれからJDCにでも行くか、と考えていた。あたしの学校は府内でも郊外の方にあったから、JDCの壊滅の音は聞こえなかった。極々普通に、いつもの通り、鴉城のところに行こうと地下鉄に乗った。

 虫の知らせ、とか。

 嫌な予感、とか。

 天啓のように振ってくる推理、とか。

 そんなのは、全くなかった。

 だから、JDCに、いいや、JDCがあったところに到着したとき、あたしは

   あたしは、

 

 

「中に入れろ。」

 見張りをしているらしい警察官に言うと、彼は不審そうな顔をしてあたしを見た。

「お嬢ちゃん、関係者なんか? JDCの探偵さんかなんかなん?」

 あたしの言うことをちっとも聞こうとしないので、あたしは無視して警官の横を通り抜けた。

「おい、あかんて。関係者以外、今立ち入り禁止なんやから。」

 警官はあたしの腕をつかんだ。あったまにきたんで、あたしはそれを振りほどいて、知った気配が集まっている部屋を目指した。後ろから警官が追いかけるが、知ったことじゃない。

「鴉城! 一体何があったんだ!?」

 会議室みたいなところに駆け込むと、そこには見知った探偵どもがたくさんと、刑事らしきやつらと、知らないやつらが何人かいた。

 鴉城はいない。

 血の気が引いた。

「仙人! 鴉城は!? 鴉城はどの病院に連れていかれた!?」

 状況を見ると、捜査会議らしい。あたしを拘束しようとした警官たちを仙人が止める。あたしは久々に見る仙人(入院していた、と聞いたはず)のシャツをつかんだ。

 だって、こんな事件の会議に、総代がいないわけがない。いないってことは、怪我をして、どこかに運び込まれたに違いない。

 だから、仙人に抱きついた。

「なあ、鴉城は!? 鴉城はどこへ行った?」

ちゃん、落ち着いて。よく聞いてください。」

 仙人は、落ち着いているようで、なんだか動揺しているように見えた。

 聞きたくない。

 こいつは、あたしの聞きたくないことを言う。

 辺りを見回す。誰もが(なんだか偉そうな男一人を除いて)、あたしから目をそらす。

 癪だけど。

「ニーナ。鴉城はどこだ?」

 サングラスの奥の目は、少し驚いていた。あたしが自分からニーナに話しかけるなんて、滅多にない。

さん、鴉城さんは、」

消えました。

 

 そして、

 

   私は目覚めた。

 

 

 

 

反省会
 ニーナちゃんとは・・・九十九十九のことです。理由はまたいつか。

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