そして俺たちは幸せになった
昇降口で靴を履き替え、今日も疲れたと溜め息を吐きながらは首をぐるぐる回した。担任のクラスはないものの、細々とした雑用や部活の顧問の仕事があって、それはそれで疲れるのだ。 学生時代は一週間連続で徹夜してレポートを書いても平気だった自分がこんなに疲れているなんて、年のせいだとは思いたくない。断じて。 それでも自分が既に二十代の後半に入っていることは事実であって。 断じて年だとは思わないが、一日勉強して元気よく部活をしている高校生を見ていると、やはりもう若くはないのだと自覚する。 それなのに。 ―――俺、ちゃんのこと、好きだ。 十年近く年の違う大人に、憧れているだけなのだ。 人にそう言われたこともあるし、自分でもそうなのではないかと疑うこともある。その指摘が間違いで、もし本当に彼がひたむきに自分を思っていたとしても、これから新しい世界に行って、色々な人に会って、やはり自分と彼はあまりにも違いすぎたのだと気付いて、もっと相応しい人を見つけるかもしれない。 だから、あのとき。 ―――私も、お前が好きだよ、終。 正直に、けれどもどうとでもとれるように答えた。 お互いに、決定打を放っていないからと、逃げられるように。 ふう、と溜め息を吐く。 そういった打算的なところが、年なのだ。 こんなことになるなら、数日前までの生殺しのような教師と生徒の関係の方がどれだけ楽だったことか。個人的な関係になにかがあったとしても、教師と生徒という関係だけは崩れず、繋がったままでいられたのに。 「ちゃん!」 こんな風に。 「迎えに来たぜ!」 唐突に会って、うろたえることなんて、なかったのに。 |