アオゾラ
くるくるとフォークを回していた私は、ハタと動きを止めた。目の前の、半分恋人半分妻のような状態の女性も、私に気付いて目で何事かと尋ねた。 「、マニキュアの色、いつもと違うよな?」 「よう気付いたなあ。鈍感作家先生にしては早いんとちゃう?」 「何言うてんのや。こちとら、伏線拾う専門家やで?気付かんわけあるか。」 「髪切っても絶対気付かへんへぼ探偵が。」 そういうことを気にするではないが、二人とも負けず嫌いなのでつい言い返してしまうのである。たいていはどちらかが引いておしまいになるので、ここから口論に発展することは、最近ではない。長年の付き合いで、お互い引くことを覚えたのである、 私と同じくスパゲッティーを食べているの本日の服装は真っ白である。それでも服を汚さずにミートソースを食べているのだから器用である。 芸術を生業としているせいか、は視覚的なものに妙なこだわりがある。服装も、常にある一定のテーマに基づいてコーディネイトし、それに合うような化粧を施す。そのため、彼女をお洒落好きの女性と見る人もいるのだが、本人は作品を作っているだけだと言う。残念ながら文章家の私には美術品への審否眼はないらしく、作品とお洒落の違いがわからない。 真っ白な服に合わせてか、今日は銀に真珠のアクセサリーをつけている。確か、イヤリングは学生時代に私がなけなしの金を払って贈ったものである。まだ持っているのか、と今日照れ隠しにからかったばかりなのでよく覚えている。 それなのに、爪だけ青い。 「白に統一せえへんかったん?」 「今日のテーマは『空』や。」 逆ではないのか? 青一色の服に、所々白なら、青空に散る雲を想像できるが。 白一色に、ほんの少しの白では、どうやっても空は想像できない。 「雲間から少しだけ見える空は、こんな色やろ?」 薄い薄い青の指先を見せ付ける。
晴れていたはずの曇天から見える、薄い青空。 まったく、芸術家先生の考えることは・・・。 「ロマンチックやなあ。さっすが版画家センセ。」 「未だに子供心を忘れへん作家センセには負けますわ。」
食後のコーヒーを飲みながら、ソファでくつろぐ私にはにやりと笑う。 「版画家センセの講釈。この青な、アリスブルー言うんやで。」
雲間から顔をのぞかす、待ち望んだ青空。
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