三日遅れの・・・
期待してなんていなかったさ、と。 目の前のチョコレートの山を見て終は溜め息を吐く。 大学に進学しても持ち前の明るさと人懐こさですぐに友達のできた終に、当然のように十四日にはチョコレートが義理も本命も合わせて送られ。 本来なら弟と二人で兄たちの分まで平らげて満足するのだが。 「義理チョコくらい、くれっていいのに。」 折角高校も卒業し、教師と生徒ではなく個人としての付き合いができるようになったのに。 チョコレートどころか、会うことすらできない。年にも地位にも差のある二人なのだから仕方ないのだろうけれど。 「ちぇっ。」 目の前に食料が山と積まれても微動だにしない兄に、余は次男に向けて首を傾げる。 「終兄さん、大丈夫かしら。」 「大丈夫ですよ、余くん。どうせ終くんのことです、一週間もすればけろっとして忘れていますよ。」 「でも、もう三日もあのままだよ?」 十四日に茉莉の持ってきたチョコレートは目の前で食べていたが、それ以外のものには手をつけようともしない。 「ちゃんに、来てもらった方がいいんじゃないかしら。」 「今は期末試験の直前でさんもお忙しいでしょう。だからバレンタインの当日に終くんとデートできなかったんでしょうし。」 「うん、そうだけれど・・・あんな終兄さん、見てるの嫌だな。」 「それはそうですね。鬱陶しくて仕方ありません。」 ふぅ、という溜め息の尾に、長男の「ただいま」という声がかぶる。 「あ、始兄さん! おかえりなさい。」 「ただいま。終はいるか?」 「いますよ。居間で腐っています。」 「そうか、ちょうどいい。」 「・・・・・・あ!」
はぁ。 本日四つ目の溜め息。 「いっそのこと、ちゃんち行ってみようかなあ。」 けれど、それで怒られでもしたら、たぶん、自分は再起不能になる。 教師と生徒、ではない関係になってから、終は当時のように傍若無人には振舞えなくなっていた。 教師と生徒であれば、学校に通っている間は、必ずは自分の相手をしてくれる。 けれど、今は。 今は、単なる個人同士のお付き合い。 が嫌だと思えば、自分を切ってしまうことはたやすいのだ。 はぁ。 五つ目。 「なに不貞腐れてるんだ。」 ごすっ。 突然降って沸いた頭の痛みに顔をしかめ、終は声の方に顔を向けた。 「な、なにすんだよ!」 「鬱陶しいから殴ったまでだ。なに寒い顔をしているんだ。」 「ちゃん・・・・・・? ってか、さ、寒いって、」 「らしくない顔していると寒いんだよ。ほら、これでも食べて浮上しろ。」 長男か次男かのどちらかだろうと思って振り上げたこぶしは、意外な人物の登場により行き場をなくす。 タッパーを投げつける意外な登場人物ことは、大げさに肩を竦めて見せる。 「まったく、チョコレートくらいで大騒ぎして。」 「逆に騒がしくなくてよかったんですけれどね。」 紅茶をいれてやってきた続が憎まれ口を叩くのも気にせず、終はタッパーを手に固まる。始と余は状況を楽しむような顔をしてファーに座る。 「これ、俺に?」 「そうだ。」 「バレンタインチョコ?」 「の、埋め合わせだな、正しくは。当日は忙しかったから。」 悪かったな、と苦笑して終の頭を撫で、は始の向かいに座った。 「さん、忙しかったんじゃないですか?」 「忙しかったけれど、それは今日まで。これから思う存分遊べるわけだ。」 続からカップを受け取り、は片口の端を持ち上げて終を見る。 「で、なにがしたい?」
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