ゲーム

 

 

 

 

 

 中央区新川。隅田川の河口付近である。そこに、場違いな網を持った四機のヘリコ(プター)が現れ、私の教え子である竜堂終は得意(らしい)のビン投げを披露した。ヘリコはあっけなくバランスを崩して隅田川に落ちていく。ううーん、映画のようだ。

「竜堂家に関わると碌なことがないとは思っていたが、いや、こんな楽しいシーンを見せてもらえるなら、一生ついていきたいな。」

「どうぞ、ご自由に。ですが、一生ついてくるには覚悟がいりますよ?」

「竜堂始の友人になって司先生のところに押しかけようと決心したときに、十分覚悟はしたさ。私がなにも知らずに先生のところに押しかけたとでも思ったか?」

 あの人が厄介な経歴を持っていたことは百も承知。

 竜堂続は得意の毒舌を返さずに苦笑して私の言葉を聞いた。どうもこの青年は、心底嫌味や毒舌が好きらしいが、憎からず思っている人間に対してはあまりそれを発揮しないようだ。

 つまり、それとなく自分は嫌われていないんだよな、と再確認。義理の兄に嫌われていては新婚生活がままならない。

 なんで義理の兄なんだよ、という質問は受け付けないぞ、念のため。

 ・・・・・・誰に言っているんだ、私は。

 五機目のヘリコがゆっくりと接近してくる。私たちは一様に身構えるが、ヘリコは少し離れたところに着陸し、中から・・・

「わお。誰だ、あの美人でグラマーなお姉さんは?」

「そういえば、さんは女性がお好きでしたね。」

「なにを言う。私は男の方が好きだぞ、竜堂続。」

「十五歳くらいの少年が?」

「そうそう、十五歳くらいの黒髪の・・・って、なにを言わせるんだ。」

「ご心配なく。本人は全く気付いていませんから。」

 横目でちらりと私を庇うようなところに立っている竜堂を見るが、竜堂続の言った通り、不審そうな顔を私たちにちらと向けただけで、そのまま美女の方を睨みつける。

 おうおう、熱い眼差しを送って。妬くぞ。

 別に竜堂が彼女のことをLサイズと呼んだから嫉妬しているわけではない、念のため。

 だから、誰に言っているんだ、私は!?

「お久しぶり、ドラゴン・ブラザーズ。二人ほど多いようだけれど。あなたは従姉妹のマツリ・トバね。それで、あなたは・・・」

 悪役らしい、この女性は。

 私はしれっと答えた。

「私は天帝だ。」

 ・・・・・・あれ?

「ウケなかったみたいだな。」

「いえ、僕たちは十分に意味を理解しました。」

 竜堂家+αは一様に肩を震わせ笑いをこらえているが、美女は間の抜けた顔で固まっている。

 いや、昔、竜堂余が、竜堂のことを孫悟空、女史を観音様だと例えていたらしいから、その頂点に立つ天帝を名乗ってみたんだが。

「さすがに役不足だったか。」

「そこで役者不足と言わないあたりがらしいな。」

ちゃん、かっこいい!」

「そうね、さんは一番偉いものね。」

「・・・俺、どうあっても勝てねえじゃねえか。」

「おや、勝つつもりだったんですか、終くん?」

「いつかは。」

 笑い始めた私たちを苛立たしく睨みつけ、美女はなんとか形勢を立て直そうとしたのか、顔を引き締め、背筋を伸ばした。余計に豊かな胸が強調される。

 いや、だから嫉妬してないから。

「で、なんの用だよ、呼ばれもしないのに来る客は、手土産を持ってくるもんだぜ。」

「手土産?そうね、これなんかいかが?」

 途端、視界が白くなる。慌てて顔を両腕で庇うと、かちっ、と嫌な音がした。

 竜堂始の手首に、妙な固体が繋げられた。

 

 

 さあ、ゲームの始まりだ。

 

 






反省会
 え、これで終わり!?

 でもまあ、続との会話が楽しい(笑)

戻る