弁当に隠された真意とそれを探る従姉妹
「こら、さっさと座れ、悪童ども。」 およそ教師らしくない声で共和学院高等科日本史教師であるは担任の生徒たちを一喝した。 全く、昼休み直後の授業は大変だ。 内心はそう呟いたが、ありがたいことに、クラスの中心人物は尊敬すべき年長者には相応の礼儀を払う人物だった。黒髪の、高校生にしてはやや小柄な部類に入る少年が席に着くと、三々五々と他の生徒も席に着いた。 だが少年に感謝することもなく、は言われてから静かに座るなら最初からそうしろもう高校生だろう、と生徒たちに毒づいてから授業を開始した。 「うし、じゃあ、宿題の答え合わせするぞ。今日は・・・やってなさそうな奴から当てるか。」 「先生、性悪。」 教室中を見回していたの目が、クラスのリーダー的少年の上で止まった。 「前言撤回。教師に無意味な反論をした奴を当てる。てわけで、竜堂、全部答えろ。」 教室中が笑いで満たされる。当てられた少年は情けない顔を一瞬してから、開き直ったように立ち上がって大袈裟に両手を開いてみせる。 「それじゃあ、この歌って踊れる竜堂家の三男坊さまが、」 「歌うな踊るな答えろ。ほら、日本最大の貝塚は?」
「横暴だと思わないか!?あれ、俺がなんか言う前から俺に当てようとしてたんだぜ、絶対!」 結局言ってしまってカッコウの理由を与えたのは自分自身だし、そもそも教師に向かってそんなことを言うからいけないのだ、とは心優しい末弟は反論せずに従姉妹の作った桜餅を食べた。 この場合、教師という言葉は教えを乞うに値する人物に当てはまる言葉で、学校という組織で偉そうに教鞭をとる人間全てを指してはいない。 「食べてるときはあまり喋らないでね、終くん。せっかく作ったんだから、美味しく食べて欲しいな。」 従姉妹に苦笑しつつ言われ、終は慌てて口を栄養補給に集中して使う。 「いいなあ。僕もちゃんの授業、受けたいな。」 「さん、中学の教員免許は持ってないの?」 「ああ。日本史はともかく世界史ができないから、中学の歴史教師は諦めたんだそうだ。だから、高校の教員免許だけ。」 「そっか。中学生は日本史世界史じゃなくて、歴史の授業で全部やるんだっけ。あ、でも、千歳さん、よくおじいさんの中国の歴史書とか、嬉々として読んでなかった?」 「漢字は読めても、カタカナは受け付けないんだそうだ。」 始は苦笑して茉莉の差し出した湯飲みを受け取った。 「あと二年かあ。早く受けたいなあ。」 「はんっ!あんな、」 「終。」 「・・・あのような先生に教えを請うても意味がのうございます。」 「言い方を変えればいいわけじゃないでしょう、終くん。」 「お前、ちょっと前までにあんなに懐いていたのに、一体どうしたんだ?」 は、現在二十三歳、共和学院高等科の日本史教師であり、竜堂終の担任の教師である。出身大学は共和学院大学であり、数奇な縁により(談)大学時代、竜堂始と知り合った。そして彼との会話を通じ、彼の家に彼の祖父司が集めた貴重な古書が当然の如く置いてあることを知り、わざわざ竜堂家に出向いて司を拝み倒して読書のために竜堂家に出入りするようになったのである。竜堂一家とその従姉妹とは、それがきっかけとなり、交流するようになる。中でも、娯楽に関していえばいたって普通の少年となんら変わりのない年少組みと、テレビゲームが得意だった千歳は格別仲良くなり、三人で遊ぶことも多かったのである。 「だってさ、ちゃ・・・先生の奴・・・ああ!先生が!教師になって俺が入学したとたん、人のこと邪険にするんだぜ!?生徒とか先生とかいないとこでちゃんって呼ぶと怒るし、俺のこと昔みたいに竜堂終、って呼ばないでみんなみたいに竜堂、って上の名前で呼ぶし、この間、弁当作ってくれるって言ったのに、弁当忘れた奴にあげて俺には購買のパンを押し付けたんだぜ!!」 あらかた桜餅は食べ尽くしたらしい終は、今度は口を件の日本史教師への文句を連ねることに使用し始めた。 「お弁当?」 首を傾げた茉莉に、楽しそうにすぐ下の弟の雄叫びを聞いていた次男坊が答えた。 「さんが、終くんの月末の財布の中身を気遣って、月末三日間はお弁当を作るって約束したらしいんです。終くん、毎月のお小遣いは、あの異常なまでの食費につぎ込みますからね。さんでなくても心配になるでしょう。」 「食費が足りないなら言え。みっともないことはするな。」 呆れて額を抑える家長に、物事の裏を見抜くことが趣味である次男は苦笑した。 「違うんですよ、兄さん。金銭の問題じゃないんです。終くんは、とりあえずさんの作ったお弁当が食べたいだけなんです。」 ああ、なるほど、と竜堂家の血を引きながらも竜の(?)心の機微を察することができる従姉妹は納得する。長男末子は、同じ種族であるにもかかわらず、首を傾げた。 未だにぶつぶつと文句を言い続ける三男坊に、茉莉は楽しそうに爆弾を投げつけた。 「要するに、終くんはさんに構って欲しいだけなんでしょ?終くん、さんのこと、大好きだもんね。」 途端、竜堂兄弟の半分が凍り付いたのだが、それが一体誰であったかは本人たちの名誉のために記さないでおく。
**蛇足**
「ねえ、続兄さん。」 「どうしました、余くん?」 「茉莉ちゃんとちゃんが始兄さんと終兄さんのお嫁さんに来てくれれば、僕たち、一生食事の心配はしなくてすむね。むしろ、一生豪華な食生活ができそう。」 「余くん、君にとって女性はコックなんですか?」
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反省会 とうとうやっちまった。竜ドリ。すでに相手が人間じゃなくなってる(笑)。因みに、余は別に男女差別者ではない。 |