幸せな日常
最近、友達の様子がおかしい。 原因はわかっているんだけれども。 「! ほ、ほら、あんた、竜堂先輩がいらしてるわよ!!」 そんな、お化けを見たような顔しなくても・・・。 私はちょっとだけ笑って、そんな挙動不審な友達に背中を押されて先輩の元へ行く。 「どうかしたんですか?」 「いえ、別に。」 「そうですか? なんだか少し、笑っているようですが。」 まだ少し笑っているらしくて、先輩は小さく首を傾げて尋ねる。 まさか、友達が先輩を怖がって慌てる様が面白かった、なんて言えないし。 私たち一年生の間では、「白馬の王子さま」と称される先輩だけれど、一部の女子からは「白皙の冷血魔王」と先輩は恐れられているらしい。確かに、とても先輩は綺麗で、でもその綺麗さが怖い、って言う友達がいる。 そんなことないのに。私のちょっとした変化にもすぐ気付いてくれるし、授業の合間にこうやってちょくちょく会いに来てくれる。とっても優しい先輩なのに。 「先輩、次授業ですか?」 「いいえ、僕はもうこれで今日は終わりです。さんは?」 「私も今日はこれで終わりです。」 「なら、このあとお時間はありますか? いつもの喫茶店で、お茶でもしませんか?」 いつもの喫茶店、とは、私が初めて竜堂先輩と入った、学校の近くの喫茶店。男の人が一人でやっていて、そこのケーキがとっても美味しいので、私のお気に入りのお店。先輩もそれは知っているので、よくそこへ誘ってくれる。 「はい、行きましょう! ちょっと友達に言ってきます。」 「もしかして、このあとお友達とご予定でもありました?」 「いいえ。さっきの授業で一緒で、たまたま一緒に帰るところだったんです。ちょっと待っててください。」 走り出そうとする私を先輩はちょっと止めて、荷物を取り上げる。その方が楽でしょう、って。 やっぱり、先輩は優しい。 私はちょっとだけ頭を下げて、友達の方に小走りに走る。 「ごめん、このあと竜堂先輩とお茶することになったから、先帰っててくれる?」 「いいけど・・・・・・あんた、荷物は?」 「え? 先輩が持っててくれてるけど。」 それがどうかした? って尋ねると、友達はちょっと変な顔をした。 「ま、まあ、行ってらっしゃい。」 友達は引き攣った笑顔で私を見送る。私はちょっと首を傾げたけれど、ま、いっか、と思ってそのまま先輩のところに戻る。 「お待たせしました。」 「では参りましょうか。」 私は荷物を返してもらおうと両手を出したけれど、先輩は私の荷物を持ったまま先に歩く。私は荷物を受け取りそびれた手をどうしようかと思って、けれども慌てて先輩の跡を追いかけた。 「せ、先輩、荷物、」 「この間、あそこのマスターに会ったんですけどね、高級茶葉が手に入ったからさんをつれてこいっていわれてたんですよ。」 先輩は私の言ったことなんか聞こえなかったかのように笑う。こうなったらなんと言っても聞いてもらえないので、私は諦めて、でもちゃんと先輩の目を見上げる。 「ありがとうございます。」 先輩はきょとんとしたように私を見返して、それからとても優しそうな笑顔を浮かべた。 「さ、先輩、行きましょう!」 私はなんだか照れくさくなって、先輩の顔を見ないように走り出した。
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