亀姫夢話
東京都中野区の閑静な住宅街に、一人の男が立っていた。 彼を最初に発見したのはそこの住人である花井欣子という女性であり、彼女が後日証言したところによると、「お隣の竜堂兄弟には劣るけれども、まあまあ美形と言ってもいいんじゃないかしら。でも、アレは絶対にまともな人間じゃないわ。なんといっても、あの竜堂さんの家に入っていったのだもの。」 その男性が竜堂家を訪れる少し前。 「先生の、ご自宅、ですか?」 「ああ、そうだ。」 人心地ついたらしいは、その事実を認めると先程のように青ざめた。 「も、申し訳ありません! 竜堂先輩になにやらご迷惑をおかけした上、ご自宅にまでお邪魔してしまいまいて!!」 突如として大声を上げて頭を下げたに呆気にとられたのは始で、続は今日一日の付き合いでなんとなくの性格がつかめていたので、小さく苦笑するだけであった。 「あ、いや、巻き込んだのはうちなんだから、あまり気にするな。」 「そうだぜ。続兄貴が非凡で非常識だから、俺たちみたいな平凡な常識人はいっつもいい迷惑なんだよなあ。な、余?」 「僕たち、平凡って言っていいのかしら。」 「終くん、あとでじっくりと兄弟で普通の線引きという不変のテーマについて語り合いましょう。」 「ほらほら、四人とも。さん、だっけ? が呆れてるわよ。」 鶴の一声で場が静まり、四人は決まり悪そうに一斉に明後日の方向を見た。その姿に思わず笑いを漏らしたを見て、茉莉はほっと息を吐いた。先程よりもよほど顔色がいい上に、体の硬直がとれている。ずいぶんと落ち着いたらしい。 は笑った。 「私は大丈夫です。やっぱり、先輩は紅竜王さまみたいにかっこよかったし。」 場に、冷たい空気が流れた。 は自分がなにか失言しただろうかと考え、すぐさま夢の話をしてしまったことに気付いた。誰も知らないのだから、困惑して黙り込むのは当然だろう。 なんとか誤魔化そうとしたが、その瞬間、続の冷たい表情に出会った。 「そうですか。そのために僕たちに近づいたんですか。」 え? と聞き返す間もなく、の喉に続の手がかかった。 「白状なさい、誰に言われました?」 「な、な、」 手に力は入っていない。しかし、なにかあればすぐにの細い首を捻ることはできる。 それを確認し、始は続の手首を掴んだ。 「やめろ、続。まだは敵だと決まったわけじゃないだろう。」 「何食わぬ顔をして、僕らの正体を知っていながら近づいたのに、ですか?」 家長には絶対服従の続が、承服しかねる、と前面に押し出して答える。更に言い募ろうとしたとき、玄関のチャイムが鳴った。 ハラハラとその場を見守っていた茉莉は慌てて立ち上がった。 「あ、終くん、余くん。ここはお願い。」 なにをどうお願いされたのかいまいち図りかねたが、終と余は素直に頷く。それを確認した茉莉は急いで玄関に向かった。 一般身長より高い身長を持つ傾向にある竜堂家の玄関は高さが普通の家庭の玄関も高い。その玄関でも一見して背が高いことがわかるシルエットが、中から通して見て取れる。 「はい、どなたですか?」 「ごめんください。と申します。たぶん、うちの不肖の娘がお邪魔していて、そろそろ地雷を誤って踏んでしまうんじゃないかと思って参りました。」
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