夢話

 

 

 

 

 

 人相の悪い、善良な市民とは思えない男たち数名にあとをつけられていることに気付いたのは少し前のこと。

 を早く返して一人で相手をしようかとも思ったのだが、彼女を人質にとられたり、つけているのが自分ではなく彼女のあとだったりしたら厄介だと思い、続は怪しまれないように由梨とともに人気のない裏道に入った。

さん。」

「はい。」

「とりあえず、なるべく僕から離れないようにしてください。」

 無理かもしれないが、一応そう言っておくと、は緊張した面持ちで頷いた。

 姿を現した男たちは、怯えているを見て加虐的な顔をする。

「竜堂続だな。」

 初対面の相手を呼び捨てにする輩は猿の仲間だから返事をしなくてよい。

 続は忠実に家訓に従った。

 なんの表情も浮かべない続に不満を持ったのか、男たちの中でも飛びぬけて体格のいい男が一歩前に出る。

 だが、次の瞬間、後ろへ吹き飛ばされた。男が前に出ると同時に、続は足元にあった小石を男の腹めがけて蹴飛ばしたのである。本来なら硬い筋肉に覆われている体はそんな石ころなど微風ほどにも感じないのだろうが、超人的な速さで蹴られた石は速度によって凶器に変わったのである。

「すみませんね。僕は兄弟の中で一番卑怯なので、手を出される前から攻撃します。」

 目を見開いたににこりと微笑みかけ、続は逆上して襲い掛かる男の襟をつかみ、後に続いた男たちに投げつける。

 男たちが怯んだ隙に、呆気にとられているを抱える。敵前逃亡は主義に反するのだが、彼らの狙いが自分であると判明した以上、関係のないを巻き込むわけにはいかなかった。紳士的である事を信条としている次男坊は、彼女の安全のために主義に反することは厭わなかった。

 彼女を巻き込んでしまったら、兄さんに叱られてしまいますしね。

 そう心の中で呟き、続は「失礼しますよ。」とを抱き上げた。驚いて奇声を発したには目もくれず、そのまま助走もなしに目の前の男の一団を飛び越える。

「りゅ、りゅうどうせんぱい!?」

「遊園地の絶叫ものは得意ですか?」

「え、あ、は、はい、」

「なら大丈夫ですね。」

「追え!」

 人通りの多いところへ逃げれば、彼らも派手な動きはできないだろう。

 そう思い、続はを抱き上げたまま表通りへと走る。後ろから追いかけてくる男たちを即座に引き離せる自信はあるが、そのスピードにが耐えられるかどうかはわからないので、全速力よりはスピードを緩める。

―――パンッ

 足元のコンクリートがはじけた。

「きゃっ!」

「体を縮めて!」

 ちっ、と続は柄にもなく舌打ちを打つ。まさか、白昼堂々と拳銃を撃ってくるとは思わなかったのだ。自分が当たっても特に支障はないが、に当たってしまっては困る。

 続はスピードを上げた。

 

 

 信じられない、一体なにが起こっているの!?

 ふわふわした、なんだか楽しい気分で紅竜王さま、もとい、竜堂先輩とデートしてたのに、突然路地に入ると、なんだかおっかない人たちに囲まれて、それで、先輩に抱えられて、おっかない人たちを飛び越えて、追いかけられて、そして、

 火薬の匂い、コンクリートの破片、罵声。

 いやだ、こわい。

 私は私を支える先輩の服の袖を掴んだ。本当は怖くてしがみつきたかったんだけど、そうしたら走るのに邪魔になる気がして我慢した。

 路地裏を抜けて、人がたくさんいる表通りに出る。突然、女の子を抱えた美形の男の人が出てきて、周りの人が一斉に振り向いた。

さん、恥ずかしいかもしれませんが、少しの間我慢していてください。」

「は、はいっ。」

 なんとかそう返事すると、先輩はにこりと笑って、後ろを振り返った。

 私も同じように、今出てきたばかりの路地裏を覗き込む。

 そこには、手に黒い銃を持った男の人たちがこちらに向かって走っていた。

「人がいるところではさすがに発砲しないと思います。大立ち回りもないと思います。が、もう少し、我慢していてくださいね、姫。」

 私の体を支える手で器用に頭を叩き、先輩は再び走り出す。どこへ? と聞きたかったけれど、そんな余裕はない。

―――姫。

 先程の先輩の台詞を思い出す。

 恥ずかしさと共に、でもどこかで聞いたことのあるような懐かしさを覚えた。

 

 

 

 

 

反省会
  王子なんです。続兄さんは王子様気質なんです。だからこんなこともさらっと言えるんです。気色悪いけどしかたないんです(ぇ)。
  昔から思っていたけれど、戦闘って本当に書きづらい。「創竜伝」やってるなら戦闘シーンははずせないんだけど、本当に難しくてかけない。田中氏は毎回、どうやって書いているのだろうか・・・・・・。

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