夢話

 

 

「あれ?続兄貴、どこか出かけるの?」

「ええ。夜は外で食べてきますから、茉莉ちゃんにそう言っておいてください。」

「なになに?デート?」

「終くん、口は災いの元という言葉を実地で教えてさしあげましょうか?」

「け、結構です。日曜日にまで勉強なんかしたくないやい。」

「あ、続兄さん、出かけるの?」

「ええ、留守番、よろしくお願いしますね。兄さんの見張りも。放っておいたら、あのまま地下で暮らしてしまいますから。」

 

 

、出かけるのかい?」

「うんっ。ほら、前に言っていたでしょ?紅竜王さまそっくりの先輩。お母さんとおばあさんの手紙をくれた人。一緒に絵画展観に行くんだ。お礼にお供しに行くの。」

「へぇ。お礼だけ?」

「え?」

「デートなんだろう?楽しんでおいで。」

「お、お父さん!?違うよ!!本当に、ただお礼がしたくて・・・。」

「わかったわかった。行っておいで。夕食はどうする?」

「えと、わかんない。わかったら電話するね。」

「ああ。車に気を付けて行っておいで。」

「もう、お父さん!子供じゃないんだから。」

 笑って娘を見送った男は、居間にある妻の遺影に向かって呟いた。

「朔良、私たちの娘は、もう見つけてしまったぞ、自分の運命を。」

 するりと遺影を撫で、先程出て行ったばかりの娘の姿を思い出す。

「まだ十八だ。たった十八年しか生きていない。なのに、もう、」

 

 

 お父さんにはああ言ったけれど、やっぱりこれはデートだ。男の人と二人っきりで出かけるなんて初めてだから、すっごくどきどきする。

 変なカッコじゃないかな?

 この間、お父さんと一緒に買い物に行ったときに買った、新しいスカート。お父さんは似合うよ、って言ってくれたけど、ホントにそうかな?

 ブラウスには、昨日の夜ちゃんとアイロンをかけておいた。でも、なんか人ごみを歩いたせいでちょっとしわになっちゃったかも。気にしすぎかな?でも、ちょっと気になる。

 帽子の角度、おかしくないかな?変にかぶると、髪の毛が膨らんで見えちゃうんだよね。

 色々考えていると、人ごみの中に先輩の顔が見えた。やっと待ち合わせ場所に着いたんだ。新宿の東口なんて来たことないから、ちゃんと着けるか心配だったんだけど、なんとか着けたみたい。よかったあ。

 腕時計を見る。よし、待ち合わせにはまだ時間がある。遅刻はしてない。

「先輩、おはようございます。」

 

 

 人ごみの中に背の低い女の子を見つけた。初めて会ったときから背が低いなと思っていたので、今日も実は見つけられるか少し不安だった。

 それでも、溢れ返る人の中で、何故か彼女の姿は鮮明に見えた。

「先輩、おはようございます。」

「おはようございます、さん。」

 今日のはチェックのプリーツスカートに白いブラウス、臙脂色のベレー帽。

 流行の格好をするような子だと思ってはいませんでしたが、こういう路線で来ましたか。

 行きましょうかと軽く肩を押して進む。こういった扱いには慣れていないのか、続の手が触れただけでは顔を赤らめる。その反応が新鮮で、続はつい面白くて吹き出しそうになる。

『続が女の子に親切にするなんて、珍しいな。』

『そんなことありませんよ。僕はいつだって女性を大切に扱っていますとも。』

 と出かけてくると言ったとき、始は驚いた顔をして上のような台詞を言った。

 しかし、兄の言う通り確かに、今まで自分から声をかけてきた女性を最後まで丁重に扱った覚えはない。それなのに、何故彼女をこうまで構うのだろうか。

 記憶のない母親を慕う姿にほだされた?

 いや、その話を聞く前から、彼女をお茶に誘っていた。

 何故なのだろう。

 納得する答えは、知っている。

 けれど、知っていることと納得することはあまりにも違うもので、

 

 

「先輩、今日連れて行っていただけるのは、どういう絵画展なんですか?」

「ああ、実は、高校のときの友人が、画家を目指していましてね。その彼が、他の画家仲間と一緒にですけれど、展覧会を開くことになりまして。喫茶店と一緒になっているギャラリーで開かれているんですよ。」

 先輩が言うには、どちらかというと友達というよりは悪友といった感じの友達で、さっさと高校を中退して画家の道に走った人なのだそうだ。前にも何度かそのギャラリーでそのお友達の絵を見たことがあるらしくて、「退屈で眠くなる、ということはないと思いますよ。」と褒め言葉を言っていた。

 たぶん、褒め言葉?

 その喫茶店のようなギャラリーで先輩のお友達(真人さんというらしい。苗字は教えてくれなかった。苗字は嫌いなんだ!だそうだ)の絵を見て、おいしいケーキとお茶をいただいて(真人さんが奢ってくれた。おかしいな、私、先輩にお礼するために来たのに、私がいい思いしてどうするんだろう)、三人でちょっと喋って(真人さんは、変な方言を喋る、とても愉快な人だった。先輩と喋ると、何度も冷たい攻撃されていたけど)からギャラリーを出た。

 それからルミネの上にあるレストランで食事して(ここでも、先輩に奢られてしまった。当初の目的からどんどん遠ざかってる・・・どうしよう)、色々お店を見た。いくつか先輩がかわいい服を選んでくれたりして、ちょっと、本当に恋人同士のデートみたい。

 どうせ、周りから見たら兄妹に見えるんだろうけど。

 でもいいもん!楽しいから。

 うん、ずっと、雲を踏んでるみたいにふわふわした感じ。

 すっごく楽しい。

 へへ、なんか、なんか、うれしいな。

 って、楽しかったのに。

 なんで、こんなことになってるんだろう。  

 

 

 

 

反省会
  真人氏、そんなに重要じゃないです。メリーが好きなだけです。次男の悪友。画家。ただそれだけ。他の話にも出てくるかも?
  ていうか、次男、そろそろ主人公への気持ちに勘付く(遅)。普通のデートじゃん、これじゃあ。 ・・・あ、この話、よくある「廊下でぶつかった男女が恋をする」パターンじゃないか。今頃気付いた。 うわ・・・竜堂続ともあろう人が、べたなパターンで・・・。
  さて、「こんなこと」とは一体何なのか・・・。

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