亀姫夢話
私の通う共和学院は、文系が強い学校。私も文学部の東洋史学科にいる。その先生の一人で、すっごくかっこいい先生がいるんだ。臨時講師の先生らしいんだけど、竜堂先生って言って、ここの創立者のお孫さんなんだって。てことは、私のおばあさんのお友達のお孫さんになる。 もちろん、そんな関係でお話なんかしないけど。でも、ちょっとしてみたいかな。 私、お父さんのことしか知らないから。お母さんのことは、お父さんが教えてくれるけど、おばあさんのこととか、他の親戚のこととか、お父さんもよくわからないから、って教えてくれない。お母さんと結婚する前に、既に亡くなってたんだって。 だから、もしかしたら、竜堂先生は私のおばあさんのこと、ちょっとでも聞いたことあるんじゃないかな、って思うんだけど。 そんなこと、あるわけないよね。 そんな私にも、竜堂先生とお話をするチャンスがやってきたのです!ちょっとしたレポートが出たので、それを私がまとめて竜堂先生に提出することになったのです!。 って、クラス全員の分は、さすがにかさばる・・・。 よろよろと、目の前を提出用のレポートでふさがれたまま、私は教員棟をうろちょろする。絶対、怪しいよね、私。 助かることに、竜堂先生がいるのは一階の講師控え室だから、階段を登らなくてすむ。ふらふらと廊下を真っ直ぐ歩けばすむだけ。 なのに、 「きゃああああ!!!」 ばさばさばさっ、 と音がして、レポートは廊下に撒き散らされる。ついでに私は尻餅をつく。 どうやらぶつかったみたい。 「ご、ごめんなさい、おケガはないですか!?」 慌てておしりが痛いのを無視して目の前で立ち尽くす人を見上げる。ぶつかってしまった人は、倒れることがなかったらしい。それもそうね。私は特に小さいから、普通、ぶつかっても倒れるのは私の方だもの。 「あ、ああ、大丈夫です。こちらこそ、よく見ていなくて申し訳ありません。」 ぶつかった男の人は、丁寧に謝る。 「このレポートは、あなたのものですよね?」 そう言って、男の人は散乱しているプリントを拾い始める。 うそ・・・。 「こ、ここここここ、こうりゅ、」 「はい?」 紅竜王さま! と叫びそうになる自分の口をふさいで、なんでもないんです、って手を振ってジェスチャーをする。男の人は首を傾げて、それでもレポート集めを再開する。私もぼぅっとしているわけにもいかないということを思い出して、慌ててレポートを拾う。 「あ、ありがとうございました。」 「いいえ、こちらの方が注意すべきでした。僕の方は、荷物を全く持っていないんですからね。」 「い、いいえ、お、お、横着していた私が悪いんです。本当に、すみませんでした。それから、拾っていただいて、ありがとうございます。」 しかも、拾い始めが遅かったから、紅竜王さまのそっくりさんの方がいっぱい持ってる。 そう。目の前の背の高い男の人は、夢の中に出てきた紅竜王さまそっくりだった。 「どの先生のレポートなんですか?」 「あ、あの、東洋史の、竜堂先生です。」 紅竜王さま(もうそう呼んじゃえ!)は、一瞬片眉を上げて、それからちょっとだけ微笑んだ。 「僕も竜堂先生に用があってこれから向かうところなんです。よければ、手伝いましょうか?」 「そ、そそそんな、こうりゅうお、じゃない、初対面の方にそんなずうずうしい、」 「ですが、このままでは、再びなにかにぶつからないとも限りませんから。」 そう言って、紅竜王さまはさっさとレポートを持ったまま先に進んでしまう。 そんな、竜王さまにレポート運ばせるなんて!! ・・・あれ? 違う違う。あの人は紅竜王さまじゃないんだってば。ただのそっくりさん! 私は頭を振って、紅竜王さまのあとに続いた。 「あ、あの、ありがとうございます!」 「どういたしまして。」 どうしよう、やっぱり、紅竜王さまそっくりできれい・・・。 「あ、あの、私、っていいます。今年入学したばかりなんです。だから、実は先生のいるところも、実はちょっと迷いながら探してて、だから、あの、一緒に行ってくださって、しかもレポート持ってくださって、本当に助かります。ありがとうございます。」 歩きながら頭を下げると、紅竜王さまはまた小さく微笑む。 ああ!やっぱりきれい! 「僕は二年の竜堂続といいます。よろしくお願いします、さん。」 すごい!名前も竜なんだ!しかも、竜のおうち! ・・・竜堂? 「実は、これから会う竜堂先生の弟なんです。」 兄弟四人とも、共和学院所属なんですよ。
竜 四兄弟
奇妙な符合になんとなく気付きながらも、私は紅竜王さまの美貌に当てられて、なにもまともに考えていなかった。
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