夢話

 

 

 

 ぱちりと目を開けると、そこにあるのは見慣れた自室の天井。

 ちょっと伸びをして、えいっ、と勢いをつけて起き上がる。カーテンを思いっきり開けると、そこにはまぶしい朝日。

 うん、今日もいい天気。

 

「おはよう、。」

「おはよう、お父さん。」

 我が家は父一人娘一人の父子家庭。お母さんは私が小さい頃に亡くなったらしい。親戚も殆どいないので、私は物心ついた頃からずっとお父さんと二人で暮らしている。

「大学はどうだい?もう慣れた?」

「うん。すっごく面白いよ。授業が高校までと全然違うもん。それに、お母さんが通ってた学校かと思うと、すっごく楽しくなるんだ。」

 私は今年の四月から、共和学院大学に通っている大学一年生。そしてその大学には、お母さんも私と同じ年の頃に通っていたらしい。しかも、その学校の創立者は、私のお母さん方のおばあさんのお友達だとか。それに、お母さんはその創立者の教え子なんだそうだ

 すっごく縁のある学校だ、と思う。

 お父さんは、それはよかったね、と言いながら優しく微笑む。うん、と私も笑って返事をする。

「そうだ。お父さん、そういえばね、今日もまたあの夢を見たの。中国風の夢。」

「そう。どんな夢だった?」

「あのね・・・。」

 私は今朝見た夢を、できるだけ詳しくお父さんに説明した。この夢は、私が物心ついた頃から、ううん、お父さんが言うには、もっと前からよく見ている夢らしい。京劇に出てくるような甲冑をつけている人や、見たこともない怪物や、溜め息が出るくらいにきれいな、きれいな、

「きれいな男の人が出てきたの。赤い甲冑を着ていてね、私のことを、キサイショウ、とか、キヒメ、とか呼ぶの。」

 キヒメ、の『ヒメ』って、『姫』かな?だったら、夢の中では私はお姫さま?

 まさかね。

 お父さんは最後まで真剣に私の話を聞いてくれる。

「赤い甲冑を着た、男の人?」

「うん、そう。」

「他には、誰も出てこなかった?」

「ううん、ほら、いつも出てくる、あの三人の男の人も出てきたよ。コウって人が二人と、シンって人が一人の、あの三人組。」

 コウ、コウ、シンの三人は、いつもよく夢に出てくる人たち。コウって人が二人いるんだけど、二人とも同じ名前で、たぶん字は違うんだろうなって思うけれど、漢字は全然思いつかない。

「その他には?」

「出てこなかったけど、名前だけなら出てきたよ。ええーと、なんだったかなあ。あ、キケイだ。キケイと、タークオと、シュクケイって人。あと、セイリュウオウさまって人も出てきた。そうそう、私ね、そのきれいな男の人のこと、コウリュウオウさま、って呼んでたよ。」

 コウリュウオウとセイリュウオウって、たぶん竜王さまなんだろうなあ。じゃあ、あの人は、竜なのかな。

 お父さんは少し考え込む。

、たぶんね、その大哥って人が青竜王なんだと思うよ。大哥は、中国語で『一番上のお兄さん』という意味がある。その赤い甲冑の人が紅竜王なら、一番上の兄は、青竜王だ。その、キケイとシュクケイというのも、竜王だね。季卿の『季』は『末』という意味があるから、末子を呼ぶ。竜王は四人兄弟で、その一番下は黒竜王。叔卿の『叔』は、『若い』という意味だ。紅竜王が若いと呼び、しかも『季』と呼ばない竜王なら、あとは白竜王しか残っていない。」

 へえ。

 お父さんは、絵本を描いている。そのせいか、お父さんの書斎にはたくさんの本があって、でもそれには絵本に関係のなさそうな本もたくさんある。その関係のなさそうな本の中に、中国のことの本もたくさんある。だからこんなに詳しいんだと思う。

「そうか。の夢の中の世界がその竜王たちの世界なら、コウ、コウ、シンの正体もわかるな。」

 お父さんは手を組んでその上にあごを乗せた。

「コウとコウは、それぞれ、蛟と虹のことを言っているんだろう。シンは、恐らく蜃だろうな。その三匹、というか三人は、竜王たちの部下だから。」

 すっごーい。

 お父さんて、物知りだなあ。

 あれ?

 なんで、そんなお父さんもよく考えないとわからないことを、私は夢に見ているの?  

 

 

 

 

反省会
  メリーのドリだといつものことですが、お相手がなかなか出てこない。
  お父さん、博識。ていうか、三将軍は夢の中に既に出ていて、紅竜王は初のようです。

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