1月は「お正月」

 

 

『創竜伝』より竜堂終






「なんだ、晴れ着じゃねえんだ。」

 現れた担任教師がいつものような格好をしていたので、終は不満そうに口をへの字に曲げる。

「着付けが面倒なんだよ。それに、女史のお節を楽しみに来たんだ。着物を着たらたくさん食べられないだろ。」

 一人暮らしでは正月も寂しいだろう、ということで竜堂家の正月に呼ばれたのである。

「あ、あけましておめでとうございます。」

 声を聞きつけてきたらしい茉莉が、晴れ着の袖をふわりと揺らしながら玄関に現れる。

「ああ、おめでとう。ほら、お年玉。」

 紙袋に入った菓子類を受け取り、お茶淹れたからどうぞ、と台所に消えた茉莉に笑ってみせる。

「俺にはお年玉ないの?」

「生徒に誰がやるか。」

 スニーカーを脱ぎながら答えると、終は今度は頬を膨らませて見せる。年に似合わず幼い行動をする生徒に苦笑し、くしゃくしゃと頭を撫でる。

「ほら、初撫でやるから我慢しろ。」

「・・・子供扱いするなよ。」

「お年玉ねだる奴は子供だろ。」

 だから、まだこれで我慢しなさい。

 

 

 

******

 じゃあ、大人になったらなにをあげる気なのか。

 


『有栖川有栖』よりアリス

 

 

「「あけましておめでとうございます。」」

 正月に実家に帰ることはもうほとんどない。年末ぎりぎりまで原稿を書いていることが多いというのもあるが、毎年画家の彼女がお雑煮とお節を作りに来てくれるからというのもある。

「ゆうても、アリスがお正月やで、言うてくれんと忘れてるんやけどな。」

 年越し蕎麦をすすりながら、しみじみ言う彼女に溜め息を吐く。年中行事に疎い彼女のために常に行事一週間前からメールを送り続けているのである。今年も、十二月の頭からクリスマスを叫び続け、それが終わったらずっと正月正月と連呼していたのである。

「面倒やけど、おかげで美味い飯食えるんやからな。」

「面倒なん?」

「そりゃ、毎日「もうすぐ正月」ってメール送ってればな。」

 ふむ、と箸をくわえたまま彼女は眉間にしわを寄せる。

「今年は、頑張る。」

「お、もう今年の目標できたんやな。」

「ん、頑張るわ。ええーと、次の行事は・・・成人式?」

 ・・・関係ないやろ、三十代。

 

 

 

******

 行事に疎いけど、お節はばっちり作れる主人公。


 

『京極堂』より榎木津

 

 

 

 

 

 

 うきうきした様子の雪絵さんなんて、滅多に見られないので私はおとなしくしていることにした。

「まあ、赤が映えるわ。」

「本当に、色が白いからだわ。」

 雪絵さんと同じく嬉しそうに千鶴子さんが声を上げる。二人が自分たちのお古でよければ、と晴れ着を着付けてくれることにしたのはついさっき、除夜の鐘を聞き終えたところ。初詣に行くなら、と千鶴子さんが若い頃着ていたという晴れ着を引っ張り出してくれたのだ。

「雪ちゃん、まだ着付け終わらないのか?」

「もうちょっと待って下さいな、榎木津さん。これからまだお化粧するんですから。」

 え・・・?

 今年も色々あったから、雪絵さんが楽しそうならいいかな、とも思ったんだけど。

 きらきらした目で障子を開けたエノさんに出会ったら・・・。

「おお、可愛いぞ! 化粧なんてしなくてもデリシャスに可愛いじゃないか!」

「あら、お化粧したらもっと可愛くなりますのよ。」

「そうなのか! 千鶴ちゃんが云うなら待ってよう!」

「あの、エノさん、いつの間に来たんですか・・・?」

 

 

 

******

 因みに、エノさんは袴着てる。


 

『九龍妖魔学園紀』(not夢)

 

 

 

 

『九龍妖魔学園紀』(not夢)

 

 

 

 

 

 

「こーたろー。今何時?」

「ジャスト零時だ。」

「おー。あけおめことおろー。」

「・・・・・・ああ、おめでとう、九ちゃん。」

 某国地下遺跡内にて。日本時間に合わせてある時計を見た皆守は苦笑して相棒に答える。正月なんて国によって時間が変わるのだからいつでもいいとは思うのだが、葉佩は頑なに日本時間での正月にこだわる。

 それもこれも、日本にいる親友のためである。

「今大丈夫かなあ。恋人と一緒かも。」

「八千穂がそんなタマか? どうせ白岐とでも一緒にいるんだろ。」

「それって、ある意味恋人じゃない?」

 苦笑しながら、葉佩はH.A.N.T.の通話機能を立ち上げる。この区間には化人もなにもいないということは既に確認済みで、だからこうしてのんびりしていられる。

 通話音が数秒聞こえて、すぐに相手が出る。

『く、九ちゃん!?』

「あ、やっちー、元気ぃ?」

「よう、八千穂。」

『え、ええ!? 皆守くんも!? えええー!? し、幽花チャン、幽花チャン!』

 思わず葉佩と皆守は顔を見合わせる。その間も、H.A.N.T.からは八千穂の動揺した叫びが聞こえてくる。

「・・・・・・やっちー、聞こえる?」

『聞こえる! 聞こえるよ! え、今どこにいるの!?』

「とある遺跡っす。詳しくは企業秘密で言えないけど。」

『なのに、電話できるの!?』

「ロゼッタの技術部に感謝ね。あ、そうそう。言い忘れるところだった。こーたろ、行くよ。せーの、」

「「あけましておめでとう。」」

 

 

 

******

 葉佩的には、恋人は皆守、親友はやっちー。


 

『創竜伝』より竜堂続

 

 

 

 真っ赤な晴れ着に身を包んだ少女は少しはにかみながら紅唇を開く。

「あけましておめでとうございます、竜堂先輩。」

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね。」

 夢の王子さまと真っ赤な晴れ着に身を包んだ小さな少女。

 二人が並んで歩くさまは、周囲の目を引く。王子はその名の通り秀麗な顔をしているし、少女は目立つような顔ではないものの、茜色に染めた頬に愛らしい小さな口元の笑みは、十分に続に釣り合うものである。

 連れだって賽銭箱に五円玉を投げ、手を合わせて瞑目する。

「なにお願いしたんですか?」

「家内安全無病息災、ですかね。」

「・・・先輩らしいですね。」

「あなたはなにをお願いしたんですか?」

 少女は頬に細い指を当て、小さく首を傾げる。

「今年も先輩と仲良く出来ますように、です。」

「・・・・・・そんなこと、お願いするまでもありませんよ。」

 

 

 

******

 ある意味一番恐ろしいお願いな気が。


戻る