12月は「竜堂家のクリスマス」(順番は決まっています)

 

 

「毎年さ、兄貴たちと茉莉ちゃんとで過ごすのも悪くないけど、たまには兄貴と茉莉ちゃんに、二人っきりでクリスマス過ごして欲しいなあ、って思うんだけど。」

「終くん、たまにはいいこと言いますね。僕としても、兄さんと茉莉ちゃんがクリスマスデートすることに関して反対はしませんよ。」

「でもさ、始兄さんと茉莉ちゃんに、そのままデートしておいでよ、って言っても、二人ともしないよね?」

「だからだぜ、余。だからこそ、俺たち弟が、今年はクリスマスに家にいられないから、って言い訳して、二人っきりになってもらえばいいんじゃねえか。」

「つまり、終くんは、僕たちがクリスマス当日に外出すればいい、と言うんですね?」

「そうそう。続兄貴だって、今年は彼女とデートしたいだろ?」

「あ、そっか。続兄さん、今年はちゃんとした恋人がいるもんね。」

「・・・・・・余くん・・・まあ、それはいいとして、兄さんたちにデートさせる、ということに関して反対はしません。当日は僕も外出しましょう。早速デートに誘いに行ってきましょう。」

「俺も俺も! 家にいないってことにする! ・・・・・・誘えるかなあ。」

「ちょうど僕もクラスの子たちとクリスマス会する、って話してたからちょうどいいや。」

(・・・末弟に負けた。)

 

 


続編 1

 

 

 既に恋人同士となって長い彼女に、一緒に出かけませんか、と言えば簡単にデートは成立する。それがなんの変哲もない日であってもだ。

 それなのに何故悩んでいるのかというと。

 父親、という壁があるのである。

 彼女の母親は数年前になくなっており、今は父親との二人暮しなのである。なるべくなら父親に寂しい思いをさせたくないのだと言って、なるべく早いうちに家に帰る彼女の心情を考えると、クリスマスだからと言って父親を放って出かけることに首を縦に振ってくれるかどうかはわからない。

 面倒なことだとは思うが、そんな彼女の優しさも嫌いではない。家族を思う気持ちは自分にもわかるので、そこばかりを非難するつもりは全くない。

 こうしてクリスマスに一緒に出かけたい、と言えば、その相手を務めたいと思う女など星の数ほどいる竜堂続は、たった一人の少女を誘うのに酷く悩んでいるのである。

「数多く女泣かせてきた竜堂続さまの言葉とは思えへんわ。」

「怒りますよ。」

 既に視線が冷たくなっていること続を、しかし高校以来の友人である画家はけたけたと笑って流す。

「いやいやあ、続さまに怒られたらかなわんわ。ええことしたるから機嫌なおしぃ?」

「なんですか?」

「俺の仕事、なんでしょ。」

「画家、でしょう。一応は。」

「冷たいなあ。んで、お前のハニーのお父さんのお仕事は?」

「・・・絵本作家、ですが。」

「俺な、一度でいいからその人と仕事してみたかってん。んでさあ、続さまに紹介して欲しいなあ、なんて。」

「・・・で?」

「しかもな、クリスマスに俺の画家仲間でパーティやんねや。そこに、ハニーちゃんのパパさんつれてきてくれるんなら、お前とハニーさん招待してもいいんやけどー。」

「・・・つまり、あなたが彼女の父親を接待している間、僕と彼女が二人でパーティを楽しんでいいと?」

「せや。」

「・・・今、初めて君を友人として好きになりましたよ。」

「・・・初めてなんかいっ。」


 

終編 1

 

 

 終業式当日、ホームルームが終わった途端、終は職員室に駆け込んだ。

「デートしようよ!」

 職員室であるということを考慮してそれは小声での誘いだったが、担任教師は額を押さえた。

「あのなあ。私たち教師は、終業式になっても仕事はあるんだぞ?」

「知ってるよ。兄貴だって先生だしさ。んでもさ、ちょっとくらい、今日くらい、ちょっとだけ、遊びに行けなくもないだろ?」

「・・・お前、もう少し先生に対しての口調を、」

「なあ。クリスマスデート!」

 担任教師は辺りを見回し、誰も見ていないことを確認する。きらきらと目を輝かせて言う生徒を、さていったいどうやって宥めようかと思案にくれる。

 しかし、なにかを言う前に、終は満面の笑みを浮かべた。

「だってさ、クリスマスって、好きな人と一緒にケーキ食うもんなんだろ?」

 彼の思惑がケーキにあることはわかっている。

 わかっているのだが。

 それでも、つい。

「わかった。少し遅くなるけれど、いいな?」

 と、つい、答えてしまったのだった。


 

続編 2

 

 

 パーティ、といっても、そんなに大騒ぎするようなものでもなく、画家さんたちの単なる集まり、というかサロン、みたいな雰囲気。

 竜堂先輩につれられて、お父さんとやってきたパーティは、初めてのデートのときに行った喫茶店で行われていた。あのときに紹介された先輩のお友達が、お父さんに紹介してほしい、ということで、二人でパーティにやってきたのだった。

 私は寡聞にして知らなかったけれど、参加している人は有名な画家さんばかりだったらしくて、お父さんがあの人はあの絵を描いた人だよ、あの人はあの流派の第一人者だよ、と色々説明してくれる。

「こんばんは。」

 お父さんの後ろに隠れながら辺りを見回していると、竜堂先輩がどこからともなく現れた。

「あ、先輩、こんばんは。」

「今晩は、竜堂くん。」

「こんばんは。本日は、我が儘を聞いてくださって、ありがとうございます。」

「いや、僕としても、色々な人に紹介してもらえるのは嬉しいことだからね。」

 お父さんは笑って竜堂先輩と握手する。それから、こちらです、といって後ろに立っていた先輩のお友達にお父さんを紹介する。

「はじめまして。すんまへん、どうしても先生にはお会いしたくて。」

「いえいえ。こちらこそ、こんな有名な方に紹介してもらえて嬉しいですよ。」

 お父さんとお友達が握手をしていると、その後ろに隠れていた私を竜堂先輩が軽く引っ張る。

「こちらにいらっしゃい。」

「え、でも、」

 先輩はちょっとだけ笑う。

「ちょっとだけですよ。少しだけ、二人っきりでデートしませんか?」

 お父さんを紹介したい、って言ってたので、お父さんが主役だと思い込んでいたパーティ。

 そんな中で、二人っきり、って言われるなんて。

 私はちょっとびっくりして、でも、恐る恐る、竜堂先輩の手をとった。


 

終編 2

 

 

 仕事が終わってから、ってことで、そりゃあ、仕事帰りだと色気のあるカッコじゃないってのはわかってたけど。

「なんか、補導されてるみたい。」

「仕方ないだろ。着替えてたらライトアップに間に合わないんだから。」

 スーツのまま待ち合わせ場所に来たせいで、やっぱり先生と生徒、ってのは変わらない。

 いやま、ホントに先生と生徒なんだから仕方ないけどさ。

 ちょっと複雑、っていうか、むかつく。

 不機嫌丸出しでいると、「先生」は呆れたように溜め息を吐く。そんなことされたら、普段は馬鹿にするな、って怒るところだけど、辺りを見回せばどう見てもカップルにしか見えない人たちばっかり。なんか、怒る以前にむなしくなってくる。

「そもそも、なんだって突然デートだなんだって言い出したんだ?」

「・・・始兄貴と茉莉ちゃん、デートさせたいじゃん。」

「ああ、それで二人っきりにするために、私を口実にしたと?」

「・・・怒った?」

「いんや? 私としても、竜堂始と女史がくっつくことは嬉しい。」

 俺はちょっと考えて、少し高いところにある目線を合わせる。

「俺たちがくっつくのは?」

 

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