今月は「学園祭」 『創竜伝』より竜堂終 学園祭を数日後に控えた共和学院高等科。 その日、竜堂終は絶体絶命の危機に陥っていた。 「なんで!? なんで俺なんだよ!」 「だって竜堂くん、絶対似合うもの!」 「そうそう! 竜堂先輩ほどじゃないけど、竜堂くんだって十分美形なんだから似合うって!」 オーソドックスに喫茶店を開くことになっていたクラスの手伝いをしていた所、突然クラスの女子数名に取り囲まれ、当日の衣装を押し付けられていたのである。 メイド服を。 「だから、なんで男の俺がメイドなんだ!」 「もう、そんなこと言ってると、竜堂先生に竜堂くんが協力してくれない、って言いつけるよ!」 (以下、終VS女生徒陣。男子生徒はとばっちりを受けたくないので手を合わせて無視している) 「うわあ、かっわいいー!」 「写真写真!」 「あ、あたし、先生呼んでくるね!」 ご丁寧にリボンまで頭につけられても、女子が嬉々としてケータイのカメラ機能を使っても泣きながら大人しくしていた終だったが、担任を呼んでくるという言葉に我に返る。 「待って待って! それだけは勘弁して!」 担任教師に仄かな思いを抱いていることはクラスメート全員が知っている。 ようは、面白がっているのである。 「センセー! ほら、竜堂くん可愛いでしょ?」 終の願いもむなしく、担任を呼びに行った女生徒を追いかけて廊下に出ると、ちょうどその本人に遭遇してしまった。 クラスメートの好奇の視線に晒されたまま硬直する二人。 「・・・・・・竜堂、」 「あ、あの、これは別に俺が好きでやってるんじゃなくてその、」 「今すぐ嫁に来い!」 「逆だろおおおお!」 ****** 自分が嫁であることは反対しているものの、拒否はしていないことに終が気付く日は来るのか。 |
今月は「学園祭」
『有栖川有栖』シリーズよりアリス
「EMCはなんかせえへんの?」 数週間前に晴れて恋人という仲になった同級生に、学園祭の出店募集のビラを見て私は尋ねた。 「どうなんやろ。やったとしても、あの面子やしなあ。」 あの面子、とはつまり、全員むさくるしい男性陣、ということで。 確かに、あの四人のメンバーがなにか食べ物を売っても誰も買わないだろうなあ。 吹き出した私に、アリスは首を傾げる。 「そっちはなんかせえへんの? ゼミかなんかで。」 「毎年おんなしのんやってるみたいやから、今年もやるんちゃうかな。」 「なにやってるん?」 私は少しの間躊躇ってから、なんでもないことのように答えた。 「餃子の出店。」 「餃子? けったいなもんやってんなあ。」 どうやら気付かれなかったらしい。 私はほっとして溜め息を吐いた。 「せやったら、シフト決まったら教えてな。買いに行くさかい。」 ・・・これは言うべきなんだろうか。 うちの出店、女子は毎年ミニスカチャイナだってことを。 楽しみやなあ、と笑うアリスに、私はなんとも複雑な面持ちであった。
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今月は「学園祭」 『京極堂』シリーズより榎木津礼二郎
姪が文化祭があるので来てくれ、と云った時、正直に云って私はうんざりした。確かに彼女の保護者代わりではあるが、大勢の人が集まる場所に行くことはなるべく避けたい。私のその性質を知っているであろうに、姪は必死な顔をして、雪絵や京極堂にまで手を回して私を文化祭に来るように仕向けた。 「だって、絶対こうなるって思ったんです!」 「わはは、女学生が沢山だ!」 涙目になった姪は、必死に榎木津の服を掴んでそう叫ぶ。 「心配しなくても、僕は女学生が好きだが、大好きなのは君だけだ!」 「タツ兄さん! お願いだからエノさんをどうにかして! せめて私がクラスの係をやっている間だけで良いから!」 大勢の女学生や訪問者の視線を受けている。それに気付き、私は――― 失語症に陥った。 「クラスの係って、君のクラスは何をするんだい?」 「何って、クラシック喫茶だって、」 そこまで云って、姪は真っ青になった。 榎木津が期待した顔をしたのである。 「喫茶店か! ということは、君はメイドをするのか!?」 「・・・・・・っ! タツ兄さん! 私の係の間もエノさんを、」 私は、 私は、途方に暮れた。
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今月は「学園祭」 『東京魔人学園』
「わっ!」 自分の巣と化している生物準備室の扉を開けた途端、そう叫んで緋勇が物陰から飛び出してきた。 気配は消してはいるものの、匂いなどそう簡単に消せるものではない。そのおかげで驚きもなにもしなかったのだが、その犬神の反応が不満らしい緋勇は大きく開けた口を小さくすぼめる。 「ちぇー。犬神さんたら、全然驚いてくれないんだ。」 「なんだその格好は。」 しかし、その格好に関しては予想できていなかったため、犬神は眉間にしわを寄せた。 頭に乗せた耳を掻き、鋭い犬歯をむき出して緋勇は笑う。 「学園祭の仮装ですよ。うちのクラス、お化け屋敷やるんですけど、僕は狼男なんです。」 嬉しそうに言う緋勇を押しのけ、犬神は机に向かった。煮詰まったコーヒーを二つのマグカップに入れると、緋勇は当然のように片方のマグカップを持って薄汚れたソファに飛び乗った。 「で、リアリティを追求したい僕は、本職の狼男さんにご指導を賜ろうとですね、」 茶饅頭を懐から取り出した緋勇は、含み笑いをする。妙なところで準備のいい生徒から茶饅頭だけを奪い取って本人は追い返すためにはどうすればいいのだろうか、と犬神は真剣に考え出した。
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今月は「学園祭」 『九龍妖魔学園紀』 (ドラマCD未聴)
学園祭、という言葉を知ってはいるものの、《宝探し屋》になること以外には特に力を入れてこなかったので、うきうきしている八千穂を見ているだけでなんとなく楽しくなる。 こういう生活もいいかもなあ、などと不覚にも思ってしまうのだ。 「九チャン、どうしたの?」 「へ? どうしたって、なにがだい、やっちー?」 「なんか、ずーっとにやにやしてる。」 「いやーん。」 無意識のうちに笑っていたらしい。両手で頬を挟んで恥らってみると、八千穂は腹を抱えて笑った。 「なにそれ、九チャン。かわいいー。」 「そりゃありがとさん。いやね、学園祭って楽しいなあ、って。」 普段から重い空気に侵されている学園ではあるが、今だけは、少し活気のあるように見える。 それがなんとなく嬉しく、葉佩はふふふ、と含み笑いをする。 「さー、やっちー。学園祭、頑張ろうね!」 「お、やる気だねぇ。んじゃ、あたしも頑張っちゃう!」 いつまでこの学園にいられるかはわからない。 すぐにこの場を去らねばならないのだろう。 ―――けれど。 張り切る八千穂の頭に手を置くと、八千穂は不思議そうな顔をして葉佩を見上げた。 「頑張ろうね。」 けれど、今だけは、楽しんだっていいんじゃないかな。 すぐに笑顔に変わった八千穂に笑みを返し、葉佩は思った。
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