いくら強いといえど、コブラにもマングースという天敵がいるのだ、と鴉城は実感した。
天然探偵神と我侭小娘
この場合、コブラに例えられているのは傲岸不遜傍若無人娘のである。今日も今日とて学校が終わるやいなや、JDCの本部ビルに顔パスで侵入し、総代室へと乗り込んできたのである。普段ならここで鴉城に遊びに行こうコールがかかるのだが、今日は少々勝手が違った。 部屋には、先客がいたのである。 「さん、お久し振りですね。」 世にも美しいマングースは、美しい笑みを浮かべてコブラを出迎えた。 そして、迎えられたコブラは 「なんでお前がいるんだああああ!!!!!」 と、JDC本部ビルにいた探偵と事務員の全員が思わず耳をふさぐほどの(比喩)大声を上げた。 マングースこと九十九十九はコブラことの大声など何事でもなかったかのように、しかし悲しそうに眉をしかめた。 「ええ、実は、さんに用事があってここにいるのです。」 「わ! た! し! は! お前に用なんかない!! 鴉城、お前、なんでニーナがここにいることを先に知らせなかったんだ!?」 「・・・いつも突然来ておいて、なにを言うんだ。」 全くの正論を言われたことが腹立たしいのか、あるいは十九がいることに動揺しているのか、は頭をかきむしった。 「さん、せっかくのきれいな髪が傷みますよ?」 「ぎゃああ!! 寄るな近付くなあ!!!」 頭をかきむしるの手を抑えようと思ったらしい十九が人の手首を軽くつかむと、は慌てて飛びすさり、脱兎の如く鴉城の方に走り、しがみついた。 「あじろおおおおおお。」 「・・・みっともない声を出すんじゃない。」 「さん、ちょっとよろしいですか?」 「よろしくない! まったくもってよろしくないから出てけよ、ニーナ。」 抱きつかれて少々鬱陶しいが、珍しくが本気で嫌がっているので鴉城は少し可哀想だと思うことにした。 が来るのはいつものことなので、天敵の十九がいることを事前に知らせておくことは簡単であった。それでも知らせなかったのは、たまには灸をすえてやろうと思ってのことだが、ここまで効くとは思わなかったのだ。 と十九の出会いは十年以上も前に遡る。鴉城とが出会うきっかけになった事件の捜査に、十九も参加していたのである。そのときに出会ったのだが、当時からはどこか十九を敬遠していた。 そしてときが経ち、の性格が悪くなるにつれ、この完璧であるはずがどこか抜けている天然呆けした性格にの性悪さが合わずに調子が狂わされるらしく、は基本的に十九を苦手がるようになったのである。 「いい加減離れたらどうだ、?」 「いやだあ。ニーナが部屋にいるうちはいやだああ。」 十九は困ったように首を傾げた。 「さん、ご協力をお願いしたいのです。あなたの高校で起こった事件の捜査をしたいのですが、なにぶん学校というものは閉鎖社会です。そう簡単にはきちんとした情報が手に入りません。ですから、学生であるさんに、」 「誰も話を聞くなんて言ってないだろうが! 勝手に聞かせるんじゃない!!」 「・・・礼は、はずむそうだが?」 「ゴディバのチョコなら聞いてやってもいい。」 途端に態度を少々変えて(鴉城に抱きついたままではあったが)十九の方を見たは、真剣な顔をしていた。真剣にチョコレートがほしいのである。 「その前に、その『ニーナ』という呼び名は、できればやめていただけませんか?」 「だって、ニーナじゃないか。」 は、十九のことを『ニーナ』と呼ぶ。鴉城の記憶が確かなら、出会った当時から緋人は十九をそう呼んでいたはずだ。何故そう呼ぶのかと尋ねたら、幼いは『だって、27なんでしょう?、九九と漢字はもう覚えたんだよ。』と答えた。 つまり、 漢字と九九を覚えたばかりのは、『九十九十九』が『九+九+九』に似ているので、即座に『27』を連想し、十九を『ニーナ』と呼んだのである。 「・・・わかりました。では、そのことはしばしの間は忘れておきましょうか。」 コブラとマングースの戦いは、今回はコブラの勝ちらしい。 いつの間にやら膝に乗ったの顔を盗み見て、鴉城は溜め息を吐いて鳴り始めた電話をとった。
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