嗚呼、青春
生徒会室の窓からの眺めは胸に痛い。 グラウンドで汗を流す先輩同輩後輩諸氏諸子を見下ろすことになるのがなんと言ってもつらい。 私が一生汗を流すことはなくて彼ら彼女らのように自由に体を動かすことができないのでつらくて胸が痛くなる。 それでも飽きずに生徒会室の窓からの眺めを私は堪能してしまうのだ。 「、次回の定例会の書類だが、」 「ここにできています。」 「すまん。」 「手塚くんが忙しいのはわかっているわ。忙しくない人が忙しい人のフォローをするのは至極効率的にして至極当然のことよ。」 私は部活に入っていない。体育会系の部活動が盛んな青春学園の部活に入って活動できるほど、私の体は強くない。体育の授業も出られないほど。だからといって文科系の部活に入るほど好きなものはない。生徒会自体も特に興味はなかった。なら何故去年クラスが一緒だったというだけで特に面識のほとんどない手塚国光氏の勧めに乗り生徒会副会長に立候補したのかというのはよくわからないが、頭の端に何故面識のほとんどない女に立候補を勧めたのだろうという好奇心と部活で忙しくなるであろう手塚くんをフォローするには部活に入っていない自分が適任かもしれないという自惚れがあったことは認める自他共に認める。 「がいてくれて助かる。」 「ええ、部活が忙しくていらっしゃるものね。それなのに生徒会長もこなし成績も優秀でいらっしゃるのは賞賛に値する努力、頑張り、勤勉さ。」 春頃は、手塚くんはこんなに素直に礼を言わなかった。恐らく、部長と会長という重圧ストレス責任負荷に視界を阻まれていたものと思われる。言われなくてもなんとも思わなかったが、言われると嬉しいものだと、最近は思う。 「あとは、来月の全校集会の進行表だが、」 「部長! すみません、桃城と海堂が、」 会長を呼ぶ後輩が生徒会室に現れる。会長ことテニス部部長はしかめ面をして「わかった。すぐ行く。」と後輩に返事をする。 「私がやっておくわ。部長さんは行ってらっしゃいな。」 「だが、前回もにやってもらったから、次は俺の番だ。今日、家で作ってくる。」 「私はこれから暇なのよ忙しい人たちと違って。時間がある人間が時間のない人間のフォローをする、これのどこがおかしくて?」 会長はしかめ面をし、私に目をやった。そう、それは視線を向けたというよりも目をやったという表現がしっくりくるくらいに御座なりで等閑でぞんざいだった。私は手塚くんに顔をくるりと向けて眉をしかめる。 「しかし、」 「耳がないのかしら。私は『部長さん』と言ったはずよ。あなた部長でしょう。責任がおありなのよ。早急に即刻部活へ行ってらっしゃい。」 「だが、」 「記憶力もないのかしら。忙しくない人が忙しい人のフォローをするのは至極効率的にして至極当然のこと、時間がある人間が時間のない人間のフォローをする、これも至極効率的にして至極当然のこと。間違いは微塵も豪も一寸も少しもちぃともないはずよ。」 「、」 「行きなさいと言っているでしょう。私は動くことができないのだから、代わりにこの窓から仕事をしながら、動くあなたを見つめるくらいしか、学生生活を楽しむすべはないのよ。さあ、私の事を思うのなら、今すぐテニスコートへ戻って部活動に勤しんでちょうだい。さあさあさあ!」
生徒会室の窓からの眺めは胸に痛い。 グラウンドで汗を流す先輩同輩後輩諸氏諸子を見下ろすことになるのがなんと言ってもつらい。 私が一生汗を流すことはなくて彼ら彼女らのように自由に体を動かすことができないのでつらくて胸が痛くなる。 それでも飽きずに生徒会室の窓からの眺めを私は堪能してしまうのだ。 この胸の痛みが、つらさだけが原因でないとおぼろげながらに気付きながらも。
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