欲求

 

 

 とても理不尽な気がするのです。

 だって、私の彼氏はクラブが忙しくて休日は滅多に遊びに行けない。それはまだいい。たまに、本当にたまに、三ヶ月に一度くらいに、クラブが休みになるから。私の彼氏がそれだけクラブが好きだか知ってるから絶対にそのことで私は不満を言わない。

 じゃあ何が理不尽な気がするのかというと、そのたまの休みというのは、ほとんどが自然現象のために休みにせざるを得ないからということ。

 つまりゃ、雨の日なんだよ、休みって。雨の日に外でテニスなんかやってられるか、ってことで休みになるんだよ。考えてみ? テニス休みにするくらい雨の日に、遊びに行けるかってんだ。

 そんなことを考えていることに気付いているのだろうか、我が愛しの彼氏手塚国光は現在私と背中合わせになって本を読んでいる。これだって、私が無理矢理国光の家に行くと言い張って、本を読み始めた国光の背中に無理矢理くっつきでもしないと起きない接触。別にね、不二と不二の彼女やエージとエージの彼女みたいに、学校とかで年中常夏気分でいたいわけじゃないわ。今のつかず離れずな関係、私は結構気に入ってるのよ。

 でもね、やっぱりみんなと一緒と、二人っきり、っていうのは、気分的にちょっと違うわけ。

 それ、わかってるのかしらね、この人は。

「くにー。二人っきりなの、久々だよ。」

「そうか。」

「そうだ。」

 なんて、甘えてみたって、この人は特に気にした様子もないし。まあね、こうやってないにもしないでいてものほほんと時間が過ぎてく、って関係もいいけど。

 そうねえ。なんか、熟年夫婦みたいだけど。まあ、相手がこの人だって時点で、そんなに多くを求めちゃいけない、ってわかってるつもりだけど。

 そうよ、そうなのよ。あんまり求めちゃ駄目だわ。この人はこれが精一杯なんだから。いくらちょっと寂しいからって、後ろから抱き付いてみたりなんてしちゃ駄目なのよ。

「と、私は思ってたんだけど、この状態は一体?」

「人目を気にしなくてもいい、と言いたいのかと思った。」

 国光さん、突然本を放り投げて抱きつきですか。私の肩に顎を乗っけるので、髪が首に当たってこそばゆい。

「抱きつきたかったの?」

「・・・ああ。」

 素直だわ。いつもはだんまりなのに。

 まあ、それだけずっと我慢してたんだろうね。

 今年から部長さんになって、副部長だった去年より忙しくなって、生徒会長の仕事も入って、高校への進学試験の勉強も始まって。

 手を抜く、ってことができない人だから、今までずっと頑張ってたんだよね。

 私はよしよし、と国光の頭を撫でる。

「私もね、寂しかったよ。だからさ、国光、もっとぎゅってしててね?」

「それは他のことももっとしていいということか?」

「調子に乗んな。」






反省会
 むしろメリーが調子に乗るな。頑張って甘くしてみた。

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